第28章 あたら夜《壱》
「ねぇ。アネモネ、ってどんな花なの?」
「…君の好きな花は?」
「え?」
まさか問いで返されるとは思っていなかった。
穏やかに促してくる杏寿郎に、ふと思い返してみる。
「ん、と…杏寿郎の誕生花とか、かな。菖蒲の花」
「うむ。前に教えてくれたな」
「うん。あ、瑠火さんのお花も好き。桔梗の」
「ああ。それも教えてくれた」
「後は千くんがくれたお花も好きになったよ。特に二本の白い薔薇」
「花言葉だな」
「うん。素敵だった」
植物に詳しい千寿郎から、花には一つ一つに想いや意味があるのだと教えてもらった。
花そのものだけでなく、その本数によっても。
それはとても興味深く、知れば知る程身近にもある花々が好きになれた。
思い出すように告げる蛍に、杏寿郎が今一度着物のアネモネに視線を落とす。
「君が好いてくれた花には紫のものが多い。だから俺も同じ色味の花を贈りたかった。火事で焼かれてしまったが、一張羅と言っていた袴も似た色合いだっただろう?」
「…そういえば」
指摘されて改めてそういえばそうだと気付く。
それ以上に、そんなに自分のことを見ていてくれたのかと杏寿郎の記憶力に驚いた。
「色味によって花言葉は変わるそうだ。白ならば"希望"。赤ならば"君を愛す"」
「…紫は?」
着物の上で咲き誇る、赤みも帯びた若紫色(わかむらさきいろ)のアネモネ。
そこに触れて尋ねる蛍に、杏寿郎は一呼吸置くと思い馳せるように告げた。
「〝あなたを信じて待つ〟」