第28章 あたら夜《壱》
「待って。見過ぎ。見過ぎだから…っそ、そんなに可笑しい?」
見たことのない華やかな髪形で飾り、知らない化粧で愛らしさを惹き立て、別人のように変わった蛍の不器用なところを見つけて、つい口が緩む。
「ふ、くくっ」
(そんなに可笑しい!?)
堪らず破顔する杏寿郎に、ショックを受けた顔で蛍が固まる。
握った手の先からも伝わる感情に、杏寿郎はどうしようもなく笑みを零しながら頸を横に振った。
「いや、違うんだ。とても愛いらしいなと実感していた」
余りに笑い過ぎると蛍はへそを曲げてしまうこともある。
それを知っていたから、どうにか上がる声を噛み締めて緩やかに眉尻を下げた。
「鬼らしい君の中に、人らしさを感じて」
この日の為にと意気込んで着飾るところも、摩訶不思議な術で雅に魅了してくれるところも、不器用に落ち度を見せてくれるところも。
彼女の挙動一つ一つが愛らしくて堪らない。
「祭りが始まる前から、もう既に俺の胸はいっぱいだ」
「…答えのようで、答えじゃない…」
「そうか?」
望んだ答えは聞けなかったのか。少し不満そうな顔をしていた蛍だったが、杏寿郎が余りに柔く笑うから。
肩の力を抜くと、ぷすりと膨らませていた頬の空気を抜いてつられるように苦笑した。
「指はいいの。それより、これ見てっ」
仕切り直し、腕を持ち上げ袖を広げる。
一番に目につくであろうものはその着物だ。
「千くんに用意して貰ったの。どうかな?」
蛍が身に纏っている着物は、やや薄い藤色が淡く乗る白藤色(しらふじいろ)の着物。
其処には大きく開花した、やや丸みを帯びた愛らしい花々が咲いている。
白に紫、青に桃。優しい色合いで飾られた花々は一重咲きのものから八重咲きのものまで様々だ。
着物の裾を埋め、胸へと上がるにつれて情緒よく散っている。
愛らしい形をしているが上品な花模様の着物だった。