第7章 柱《参》✔
「さあ、これで決まりだ。あまね、彼らに休む為の部屋を用意してくれるかな」
「畏まりました」
「蛍は、こちらへおいで」
あまねと呼んだ白髪の女性の付き添い無しでも、変わらない様子で畳の上を歩む。
そうして、誘われるように片手を差し出された。
言われるがまま腰を上げる。
とりあえずと草履を脱ごうと縁側に歩み寄れば、私とお館様の間に小柄な体が割り込んだ。
「妙な真似をしたら、その頸斬るから」
淡々と冷たく忠告してくるのは時透無一郎だ。
不死川実弥みたいな強い殺気はないけど、それでもひんやりと背筋が冷える程の気配が伝わってくる。
お館様と二人きりにならないのは良いけど、本当にこの少年が見届け役で良かったのかな…。
一言でも言葉を選び間違えたら、頸を斬られそうな予感しかしない。
「大丈夫かしら、蛍ちゃん…」
「むぅ…お館様だからこそ預けられるとは思っている」
「彩千代、」
草履を抜いで縁側へと上がれば、傍に来た義勇さんに呼び止められる。
庭に立つ義勇さんとは頭一つ分身長が変わる。
なんだろう?と頸を前に倒せば、不意にその手が顔に伸びた。
と、私の顔には振れず、頸の後ろの付け根に触れる。
そのままするりと、私の口枷の紐を引き解いた。
あ…口枷、外してしまっていいのかな…。
「お館様はお前と話がしたいと言った。ならこれは必要ない」
「…でも…怒られ、ないかな…」
特にあの霞柱の少年に。
義勇さんか杏寿郎か蜜璃ちゃん、誰か一人でもいい。付き添ってくれたら、まだ安心できた。
でもこの先は私のよく知らない人間が二人だけ。
一人は出会い頭に斬ろうとしてきた少年で、もう一人は鬼を狩る組織の頭だという。
不安にならない方が無理なもので、つい小声で弱音を吐き出してしまう。
「お館様は、そんな矮小な器の持ち主ではない」
そうかもしれないけど…でも、そうじゃなくて。
私はそのお館様が、どんな人かなんて知らない。
それが不安なんだ。
そう顔に出ていたのかわからないけれど「それに、」と義勇さんの言葉は珍しくも止まらなかった。
「お前はお前のままでいろ。そうすれば心配ない」
私の…まま?
私のままって、どういうこと?