第7章 柱《参》✔
「義勇も、蜜璃も。蛍を思って行動してくれたんだね。その優しさが、私はとても嬉しい」
「俺は彩千代蛍の監視役。己の務めを果たしただけです」
「わっ私は…私は…蛍ちゃんの素敵なところをお館様にお伝えしたくて…っ」
「うん。わかっているよ。それぞれのその思いを、それぞれの形として現してくれたことが嬉しいんだ」
不思議な話し方をする人だった。
強い主張はしない穏やかな声なのに、何故かすっと届く。
そして不思議と耳に残る。
周りとのやりとりをただただ聞き入るように傍観していたら、白い目が私へと向いた。
「だけど今夜は、蛍と二人だけで話がしたいんだ。皆には悪いけれど席を外して貰えるかな」
私と…ふたり、で?
「それは成りません」
数分のやり取りでもわかる、お館様と呼ばれる人の絶対的存在感。
それでも彼の提案を否定する声があった。
「我らが此処へ来たのはお館様の保身の為でもあります。ぉ……隊士以外の者と二人きりになるのは、俺は勧めません」
…鬼、って言おうとしたんだろう、な。
そこを呑み込んで言い方を変えてくれたのは、きっと杏寿郎の優しさだ。
……ちょっとだけ、胸はツキンとしたけど。
付き添ってくれたのは何も私の為だけじゃないよね…それ以上に長い付き合いがあって、慕っているお館様を優先するのは当然のこと。
だから想定内のことだ。
「口は出しません。ただ手の届く範囲で見守らせて下さい」
続く義勇さんの言い分も尤もだと思う。
特に彼は私の監視役だから。
それでもお館様は頸を縦に振らなかった。
「私もその為に無一郎を呼んだんだよ。君達の代わりに無一郎が見届け役をやる。それでいいかな?」
「俺は構いませんが…」
ぽけ、とした表情で私とお館様を交互に見た時透無一郎が、頸を傾げながら頷いた。
なんであの少年なんだろう。
義勇さんを私の監視役として認めたなら、彼を誘いそうなものなのに。
それを義勇さんも感じているのかわからないけれど、じっと感情の読めない目でお館様を見上げたまま、その口は何も主張しなかった。