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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第28章 あたら夜《壱》



 何よりも、何故寝間着が汚れるようなことになったのか。
 兄上も気を付けてくださいと忠告していた千寿郎とは裏腹に、八重美は始終ぎこちなく目を逸らし続けていた。





『杏寿郎様にも、杏寿郎様のご都合があると、思いますので…私は気にして、おりません…』





(…あれ絶対よからぬ想像させちゃったよね…)


 頑なに杏寿郎と目を合わせようとせず、逆に蛍と目が合えばぽんっと頬を赤らめていた。
 その反応だけでどんな想像をしていたのかは大方予想がつく。

 寝間着に化粧跡が付くくらいには、揉みくちゃになることをしたのだろうと。


「千くんは本当に無垢だよね…そのままでいて下さい」

「な、なんですか急に…」


 千寿郎が八重美と同じ思考に至らなかったのは、杏寿郎が弟の前では健全な姿でいようと努めているからだ。
 その努力は少なからず実っている。
 よしよしと小さな焔色の頭を撫でながら、蛍は複雑な心境で曖昧に笑った。

 今夜は神幸祭。
 八重美も一緒にどうかと誘ったが、赤い顔のまま断られてしまった。
 お邪魔はしたくないからと。
 そんな反応をされれば強くは誘えない訳で。

 実弥も最初こそ村の警護に参加していたが、柱の身。早々と次の任務に当てられ去っていった。
 結局この時を共に迎えられたのは、煉獄家の兄弟み。


(…槇寿郎さんは、どうかわからないけれど)


 一抹の不安も残して。






「ふむ。俺もそのじゃれ合いに入りたいものだな」

「あっ兄上」

「!」


 其処へ緩やな声色が呼びかけてきて、はっとした。
 声の主がいるであろう廊下の先。其処に千寿郎が顔を向け終える前に、蛍は部屋の中へと引っ込んだ。


「姉上も準備が…姉上?」

「う、うん。待って。ちゃんとする」


 もう一度、姿見の前で身嗜みを整える。
 千寿郎を抱きしめて乱れた髪先を指で整え、化粧のずれがないか確かめ、着物をもう一度見下ろす。

 折角隅々まで、いつもとは違う着飾りで気合いを入れたのだ。
 一番綺麗な姿を見てもらいたい。

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