第28章 あたら夜《壱》
当然のように支えて抱いてくれるその腕は、自分の為にあるのだと。滲む多幸感をそのままに深く息を吸う。
香ばしいような、朝焼けしたような、あたたかい匂い。
いつも朝起きる度に身を預けて全身で感じるのだ。
一日の始まりである太陽を。
「すー-ー」
「今日は…長いな」
深く杏寿郎吸いをする蛍の頭を、苦笑混じりに大きな掌が撫でる。
はぁ、と吐息をついてようやく顔を離した蛍は、化粧跡の残る目の前の寝間着を見つめた。
「ごめんね。私が洗濯するから」
「そんな些細な汚れ、どうとも…」
「だから」
それでも遠慮することなく目の前の胸に頬を預ける。
逞しい胸にむにりと頬を押されながらも、顔を押し付けたままもぞもぞと上目に笑う。
「いっぱい汚してもいい?」
体を包み込むこの体温も、四肢も、身に纏う衣類でさえも。全てをひとり占めできることが幸福でならないと。
溢れるばかりの多幸感が頬を緩める。
ふやりと柔く甘い顔で笑う蛍に、見つめていた金輪の双眸が揺らいだ。
胸の奥がきゅっと見えない何かに握られたように、少しだけ苦しくなる。
それ以上に熱い想いが迸って、言葉にならない感情が走るのだ。
蛍から滲み出る多幸感が伝染するように。どうしようもなく和らぐ表情筋を止めることなく、杏寿郎は口を開いた。
「心ゆくまで」
──君になら、どこまでも