• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第28章 あたら夜《壱》



 当然のように支えて抱いてくれるその腕は、自分の為にあるのだと。滲む多幸感をそのままに深く息を吸う。

 香ばしいような、朝焼けしたような、あたたかい匂い。
 いつも朝起きる度に身を預けて全身で感じるのだ。

 一日の始まりである太陽を。


「すー-ー」

「今日は…長いな」


 深く杏寿郎吸いをする蛍の頭を、苦笑混じりに大きな掌が撫でる。
 はぁ、と吐息をついてようやく顔を離した蛍は、化粧跡の残る目の前の寝間着を見つめた。


「ごめんね。私が洗濯するから」

「そんな些細な汚れ、どうとも…」

「だから」


 それでも遠慮することなく目の前の胸に頬を預ける。
 逞しい胸にむにりと頬を押されながらも、顔を押し付けたままもぞもぞと上目に笑う。


「いっぱい汚してもいい?」


 体を包み込むこの体温も、四肢も、身に纏う衣類でさえも。全てをひとり占めできることが幸福でならないと。
 溢れるばかりの多幸感が頬を緩める。

 ふやりと柔く甘い顔で笑う蛍に、見つめていた金輪の双眸が揺らいだ。

 胸の奥がきゅっと見えない何かに握られたように、少しだけ苦しくなる。
 それ以上に熱い想いが迸って、言葉にならない感情が走るのだ。

 蛍から滲み出る多幸感が伝染するように。どうしようもなく和らぐ表情筋を止めることなく、杏寿郎は口を開いた。


「心ゆくまで」


 ──君になら、どこまでも















/ 3465ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp