第28章 あたら夜《壱》
「それ以上は…っまだお昼!」
「うむ? 昼だな」
「お昼間からこんなこと…っ」
「寧ろ我ら鬼殺隊や鬼である蛍は夜が本場だろう? 休める昼間に逢瀬を重ねるのは自然なことだと思うが」
「そ、それは…」
いつもの口達者な杏寿郎に納得させられそうになりながら、それでも蛍は踏ん張った。
お昼時だからだとか、此処が煉獄家だからだとか、顔が化粧崩れでみっともないからだとか、理由を上げればなんとでもなる。
しかし一番に譲れないのは、目の前でさも当然に言い切っている杏寿郎自身だ。
「まだ寝てなきゃ。杏寿郎は休む時間でしょっ?」
まだまだ体を休ませるには時間が足りない。
折角取れた貴重な一日休みなのだ。
杏寿郎には心身共にしっかり休んでいて欲しいと、蛍は布団に手をつき体を起こした。
「それはそうだが…すっかり目が覚め」
「てない。それは気の所為っ」
「そんなことは」
「はい寝るっ」
「…む」
寝つきはいい方だが、すっかり目の前の甘美な馳走に誘われて目は覚めてしまった。
寝ろと言われて簡単に眠れるはずもない。
なのに姿勢を正した蛍がぽんぽんと己の膝を叩いて催促してくるものだから、ぐらりと簡単に決意は揺らいでしまった。
蛍の膝枕に、自分は弱い。
そう杏寿郎が気付いたのは、柔らかなその腿に身を委ねた初日だった。
「しかしだな…」
それでも名残惜しそうに杏寿郎が眉を下げて見つめれば、頬紅ではない高揚で染めた顔を逸らして蛍はぽそぽそと小声で告げた。
「体は…いつでも、繋げられる…でしょ。それより杏寿郎が睡眠を取れることの方が、難しいから」
「……いつでも?」
「ぅ…うん」
「言ったな?」
「ち、近い近い」
聞き逃しなどはしない。
ずいと顔を寄せ証言を取るべく再確認する杏寿郎に、蛍の両手が肩を押し返す。
「言ったよ。この間だってほんの少しの余暇時間に──…って言わせないで」
思い出したのか、より蛍の顔が赤く染まる。
余暇時間の合瀬。
それはここ最近で一番新しい記憶だ。