第28章 あたら夜《壱》
「そう驚くことか? 毎日だってしているだろう」
鬼である蛍に提供する血液の量を減らす代わりに、体液の提供が増えた。当然の結果と言えば当然だ。
いつだって触れていたい蛍の唇に、なんでもない時間の隙間を縫うように戯れに塞ぐこともよくある。
そして体液の提供が増えれば、先程のような唾液を交え粘膜を擦り合わせるようなものも。
杏寿郎自身の精でない限り、血液の効果に比べ接吻による効果は少ない。
だからこそ自然と回数は増えた。
それを理由に蛍の唇を味わっていたいのだと心根では思っているが、敢えて口には出さずに杏寿郎は当然のように笑い返した。
「生憎此処には誰もいない。先日のように野外でもない。蛍が欲しいだけ与えられる。──そら、」
「ぁ、んぅっ」
奪う側だからか、遠慮しがちな蛍だから、己から進み出るのだ。
(なんとも浅ましい言い訳だな)
などというのは単なる言い訳だ。
そう理由付ければ、蛍は大人しく触れ合いを受け入れる。
勿論そうでない健全な接吻だけの触れ合いも何度もしたことはあるが、そんな言い訳を理由になし崩しに抱いたこともあった。
男の性か。あるいは貪欲なドス黒い欲を見せて抱いたあの夜から生み出たものか。
あの蕎麦屋での夜以降、以前より蛍を求める回数は増えた。
血液の代わりに、などと言いながら人の目を盗んでは僅かなひと時でも触れ合い、求め、蜜壺の奥に欲を放つのだ。
そこにあるのは、ただただ底の尽きない男の欲だけ。
再び唇を深く重ね、今度は意図的に唾液を送る。
くちゅくちゅと互いの粘膜が絡み合うことで生まれる愛液のようなそれを口に含んで、雛鳥に与えるように舌で流し込んだ。
「んっんく…ふ、」
一滴も零さないようにと、細い喉を鳴らして飲み込んでいく。
ともなれば精を吸収した時のように、じわりと肌を染めて目元も潤い溺れていく。
その先の姿が見たくて、舌での愛撫を重ねながら杏寿郎の手は蛍の着物の下を弄っていた。
「っ待って…ッ」
するりとその手が乱れた着物の裾を割り、太腿に触れた時。縋るように掴んでいただけだった手が、強く胸元を押し返した。