第28章 あたら夜《壱》
「あ。この目も牙も、ちゃんとお祭りの時は隠すつもりですっそうしたらもっと人らしく見えると思うので…っ」
槇寿郎の凝視する先が鬼の部分と気付いた蛍が、慌てて告げる。
確かにその目も牙も爪も隠してしまえば、今の蛍なら鬼だと気付かれないだろう。
(前々から感じてはいたが…こいつには悪鬼特有の"気"がない)
熟練した柱として第一線で戦っていた槇寿郎だからこそ気付けた。
本来なら、その姿を前にしただけで鬼と感じ取れる。どんなに些細なものでも、悪鬼だけが持つ特有の気配がある。
蛍にはそれがないのだ。
そういうものに敏感なのは、本来は大人より幼い子供。
なのに千寿郎があそこまで懐いていられるのが証拠の一つ。
(それでも鬼は鬼だ)
納得しかけた思考を無理矢理に戻す。
それでも蛍は鬼なのだ。
それだけで斬るに値する生き物。
絆されることはならないと、槇寿郎は否定するように片手を払った。
「お前の人間を真似た遊びなどに興味はない。用が済んだらさっさと出ていけ」
「用は…」
「飯を片付けに来たんだろうっ」
蛍の目的は昼食の片付けなどではない。それを槇寿郎も知っていて、これ以上隙を見せるものかと突っ撥ねた。
三日前から散々誘われてきたのだ。
顔を合わせる度に杏寿郎にも、あの千寿郎にだって。
いい加減諦めてさっさと自分達だけで祭りでもなんでも行ってしまえ。
そう否定するように目の前の押し黙る鬼を睨み付けた。
「……」
槇寿郎の頑固さは蛍も知っている。
でなければあの太陽のような息子がいて、親子の間の溝がいつまでも修復しないのは可笑しな話だ。
(ううん多分…杏寿郎だから、だろうな…)
陽と陰。
杏寿郎と槇寿郎は性格や人間性からして、今は正にその立場だ。
槇寿郎も昔は優しく義理堅い男だっただろうが、それは瑠火という最愛の死で陰り隠れている。
(それなら──…正攻法じゃ駄目だ)
まだ退けないと足をその場に縫い付けたまま、蛍は迷うように畳を見つめていた視線を上げた。
「私、」
「まだ煩く誘うなら」
「杏寿郎さんの血を貰っています」
「叩き出……なんだと?」
槇寿郎の声が、がらりと変わった。