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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第28章 あたら夜《壱》



「千くん、さっき自分になら真顔で可愛いって言ってもいいって」

「そ、それは…でも今は駄目なんですっ」

「なんで」

「ぁ、姉上が……す…っ」

「す?」

「…き…っ」

「き?…え、すき? 私も千くんが好き」

「ちが…っいえ違くなくて…っええ、と…ぁ、姉上が綺麗過ぎるんです!」

「…千くん、目大丈夫?」

「っ姉上は綺麗です! 誰がなんと言おうと世界で一番!」


 しどろもどろだった千寿郎に、強い意思が混じる。
 赤い顔はそのままに、それでも常に下がり気味な眉を上げて告げる。その姿には蛍も目を見張った。


「…どうしよう私の義弟が世界一可愛い」

「~~姉上ッ」

「あはは、ごめんごめん。でも本当に可愛いし、嬉しいの。ありがとう」


 本音なのだが、これ以上言っては千寿郎の顔が唐辛子並に染まってしまうかもしれない。
 ゆるりと目元を緩めて、蛍は愛らしい焔色の頭を撫でた。


「姉上、からかってません…?」

「からかってない。本当に嬉しい。だって千くんの一番を貰えたんだもん」

「…僕はからかってませんよ」

「うん」


 口を尖らせながらも大人しく頭を撫でられることに甘んじる。そんな我が弟が可愛くて仕方がない。
 ふわふわと浮足立つ感情のままに、ふわふわと柔らかい小さな頭を撫で続ける。


「ふふ。素敵な姉弟ですね」

「八重美さんまで…」

「本当ですか?」


 そこに感化されるように、八重美が口元を押さえて顔を綻ばせた。

 千寿郎は不服そうに、蛍は嬉しそうに。温度差のある二人の並ぶ姿がまた、自然と家族のように見えるのだ。
 なんと愛らしい姉と弟か。


「はい。素敵なおうちで育った姉弟のようです」


 それは極々自然に八重美の口から零れた称賛だった。
 陰りなどない、愛に満ちた家庭で育った二人に見える。


「素敵なおうち…」


 その言葉にぴたりと笑顔を止めたのは蛍だ。

 満足そうに笑っていた唇が、へにょりと下がる。
 眉尻をほんの少しだけ八の字に寄せて。
 柔らかな頬がほんのりと染まった。


「そんなふうに、見えますか…?」

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