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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第28章 あたら夜《壱》



「わざわざ足を運んでもらってすみません。私から会いに行ったのに…」

「いいえ、私が此処へ来たかったのです。母から預かっているものもありますし」

「静子さんから?」

「これです」


 八重美が取り出したのは、折り畳まれた一つの紙。
 手紙のように畳まれたそれを不思議そうに開きながら「あっ」と蛍の声が上がる。


「これ…っ」

「蛍さんが知りたがっていたと伝えたら、母が記してくれました」

「なんて優しい…うんうん…やっぱり…」


 食い気味に広げた紙の中を覗き込む蛍。
 事を見守っていた千寿郎が、そわそわと興味深く頭を揺らした。


「姉上、そこに何が書かれているんですか?」

「え? あ、いや。これは」

「これは?」

「…じ」

「じ?」

「女子の秘密です!」

「えっ」


 千寿郎が覗き込もうとすれば、即座に蛍が紙を折り畳む。

 まさかそんな安易な理由で拒否されるとは。思ってもみなかった千寿郎の下がり眉が、ショックで尚下がる。


「ぼ、僕には教えられないことですか…?」

「あ。だめ。そんな顔向けないで心が挫ける…!」

「挫けていいです。教えてください」

「だ、駄目駄目…! その顔反則だから千くんこっち見ないで!」

「僕は元からこんな顔です」

「私好み!」


 眉と共に反り返った前髪をしょんぼりと下げて、弱くも千寿郎が食らい付く。
 必死に顔を背けながらも、そんな千寿郎から離れられないでいる蛍。

 やんやと賑わう部屋の空気に、きょとんと見ていた八重美がとうとう吹き出した。


「ふふふ…っ蛍さんったら」

「え……可愛い」

「えっ?」

「八重美さんのその砕けた笑顔、初めて見た」

「そうですか?」

「うん。いい。可愛い」

「ぇ…あ、あの…」

「姉上ッ」

「わっ?」

「すぐそうやって口説こうとしないでくださいっ」

「くど…いやそんなつもりは」

「姉上はすぐに可愛い人を見ると真顔で詰め寄るんですから。相手は怖がりますよ」

「そ、そうなの? 怖がらせてる?」

「はい。僕は平気ですが」

「ほんと? 千くんは嫌じゃない?」

「勿論です。僕は慣れていますが、八重美さんは慣れていません。気を付けてください」

「き、気を付けます」

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