第7章 柱《参》✔
「…わかった。産屋敷邸に行く」
「それはよかった」
頷けば、鳥顔なのにその嘴が笑ったように見えた。
「ではどなたか、扉を開けてもらえますか?」
"お館様"と柱の皆が呼んで慕う人の使いとなれば否定はできないんだろう。
鴉の指示に、外出を止めていたはずの義勇さんが鍵を開けてくれた。
「さぁ、行きましょう。産屋敷がお待ちしています」
ふわりと先に檻を出た鴉に促され、小さな檻の戸を潜る。
「待ってくれ」
しかしそれを止める声があった。
一歩前に踏み出したのは、黙って事を見ていた杏寿郎だ。
「事が事とは? 何か問題でも起きたのか?」
…そっか。
杏寿郎は、知らないから。
杏寿郎が問いを向けたのは、使いの鴉。
通路の壁に灯してある掛行灯(かけあんどん)に停まると、一度私へ視線を巡らせて再度その鳥目は杏寿郎を見下ろした。
「鬼である蛍さんのことが、平隊士に知れ渡ってしまったんですよ」
その一文で大凡のことは悟ったんだろう。
いつも以上に見開いた目が、鴉ではなく私を見てくる。
じっと向けられる強い視線にどう返していいかわからずにいると、先に動いたのは杏寿郎だった。
「…大丈夫なのか?」
たった一言だけだった。
だけどその一言は私の予想しなかったもので、どんな言葉より胸を熱くさせた。
何も知らないはずなのに。
それでも、何より先に私の心配をしてくれた。
そこにどんな思いが隠されているのかわからないけど、でも、それでもいい。
杏寿郎の、その言葉を貰えただけで。
「うん。大丈夫」
ゆっくりと頷いて、笑って返す。
全く平気だと言えば嘘になるけど、そこまで落ち込んじゃいない。
誰だって人を喰べる鬼を見れば、あんな目を向けるはずだ。
鬼殺隊ともなれば鬼の私より鬼に詳しいはずだろうし。
そこを否定する気も、否定する理由もない。
だから私は大丈夫。