第7章 柱《参》✔
「なんでそんなに普通に人語を話せるの? 鴉の学び屋でもあるの?」
「似たようなものはありますが…それでも吾輩は人語を話すだけの、ただの鴉です。そこまで貴女が重要視するような存在では」
「重要視するでしょ、鴉が喋る事実には。貴方だって人間がカーカー鳴いてたら放っておける?」
「…おけませんね」
「でしょ」
よし勝った。
思い浮かべるようにして頸を横に振る鴉に、内心ぐっと拳を握る。
そんな大事な疑問を放置したまま、産屋敷の屋敷なんて行けないから。
「貴女はなんというか…可笑しな鬼ですね」
いや可笑しくないでしょ普通なら気になるとこだって。
と言い返そうと思ったけど、なんだか嫌な気はしなかったから黙っておいた。
その鴉から、小馬鹿にした雰囲気は伝わらなかったからだ。
「あ。じゃああの鴉も話せるのかな」
ふとその存在に気付く。
偶に休んでいるのか姿を消すけど、存在を主張することなく檻の格子の右上にある木箱の巣にいつもいる、あの鴉を。
胡蝶しのぶが伝達用にと置いていった鴉だ。
あの時は、まさか鴉が喋るだなんて思ってもいなかったから、伝書鳩の代わりかと思っていたけど…喋るのかな。
気になる。
指を差して使いの鴉に訊けば、話を振られた木箱の鴉はビクリと羽毛を震わせてこっちを見下ろしてきた。
というかなんだか睨んでる気がする。
こっちに話を振るなって言われてる感。
…やっぱり話すのかな。
どきどきする。
「鎹鴉も様々ですから。話す鴉もいれば、話さない鴉もいる。一様にそうとは言い切れません」
「…そうなんだ」
なんだか曖昧にはぐらかされた気もしたけど、余りに巣箱の鴉が睨んでくるからそれ以上の詮索は止めた。
あの大きな嘴で突っ付かれでもしたら怖い。
「吾輩のことは、産屋敷邸に赴きながらゆっくりお話致しましょう。どうですか?」
格子から鉤爪を離して、黒い体がふわりと檻内の小さな机に停まる。
上手いこと言うなぁ…。
その誘い文句には惹かれたけど、元々答えは決まっていた。
「私に拒否権なんてなさそうだけど」
自分の立場くらいわかってる。
「ありますよ。しかし今回は事が事。誘いに乗った方が賢明とは思います」
やっぱりその件で来たんだ。
だったら断れるはずもない。