第28章 あたら夜《壱》
「まぁ化粧と衣装で着飾れば、女は誰だって綺麗になれるけど」
「…そうか?」
「そうだよ。だから私でも遊女ができたんだし」
顔を向ける蛍に、ふむと杏寿郎が小さく相槌を打つ。
しかしその頸は傾げるように曲がり、それから横に振った。
「であるならば、俺の思い描く雅さとは違うな」
「え?」
「俺が朔ノ夜を柚霧と似ていると感じたのは、その所作だ」
「所作…?」
「君が俺を客として招き受け入れてくれた夜。間近に柚霧を見て目が離せなかった。茶を淹れてくれる時。話に耳を傾けてくれる時。名を呼んでくれる時。君の所作は一つ一つ、とても綺麗だった」
流れるような動きで、鈴を転がすような可憐さで。
指先を揺らし、視線を流し、唇を開く。
一つ一つ見えない糸を紡いでいくかのように、繊細で柔らかな仕草。
目が離せなかった。
「いくらでも取り繕える表面的なものではない。勿論外身の美しさもあったが…俺は君の内側から伝わる振る舞いが、とても美しいと思えたんだ」
外見を褒められることよりも余程気恥ずかしい。
それでもじんわりと体の内側から温めていくような嬉しさに、蛍の顔が下がる。
「…褒めても、何も出ません」
ぽそぽそと続く言葉は素っ気ない。
しかし柔く唇を噛む蛍の表情の変化に、杏寿郎もまた嬉しそうに微笑んだ。
「十分、今貰っている」