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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第28章 あたら夜《壱》



❉  ❉  ❉

 村里を少し離れた野原。
 灯りのない場所では、歩く道すら暗がりでよく見えない。


「…今日の月は明るいなぁ」


 しかし冴え渡るような満月が空に昇っている為、視界は良好。
 拝むように呟く男は、黒い西洋の隊服に帯刀姿をしていた。

 名は村田。
 鬼殺隊隊士の一人である。


「今日は満月だからな。そっちの方が俺達的には助かるよ」

「ああ。人間は鬼ほど夜目が利かないからな」


 賛同するように隣に立つ男もまた、同じ隊服に帯刀姿。
 名は野口。
 顎の辺りで切りそろえられたぱっつん髪が特徴的な、村田の親しい隊士の一人である。


「にしても村の警護が任務なんて。そんな仕事今まであったか?」

「上弦の鬼が出たんだろ? ならそういう任務もあてられるさ」

「それ本当なのかな…上弦なんて、今まで誰も見たことがない鬼なのに」

「相手をしたのは炎柱と風柱だそうだ。柱二人の証言だぞ」

「まぁ…」

「それに警護となれば、確実に鬼が出る討伐任務よりも危険は少ないだろ」

「少ないも何も、上弦が出たら俺ら瞬殺だけどな…」

「…ああ…」


 ぽつねん、と落ちる野口の言葉には同意しか出ない。
 同じく顔を青白くさせつつも、これではいけないと村田は頸を横に振った。


「とにかく! 此処で愚痴ってる暇があれば巡回だ。怪しいものがないか見て回るぞっ」

「おお…お?」

「? なんだ」

「いや…あれ」


 頷きかけた野口が、空を仰いで一点を見つめている。
 その視線を追うように村田も顔を上げた。

 明るい夜空。
 そこには眩い程の綺麗な丸い月が浮かんでいる。


「あれって…」

「あれ。見ろよ」

「あれ?」


 野口が指差した先には眩い満月。
 金がかった白い月。その中心。
 野口が指差した先に見える──点。


(…点?)


 それ以外の例えが思い浮かばない。
 とにかく黒い点が、ぽつんと月の真ん中に見えているのだ。


「なんだ、あれ…?」

「見ろよ…段々大きくなってないか…?」

「え…まさか…鬼…っ?」


 じっと目を凝らしていれば野口の言う通りに、次第に点が大きくなってくる。
 ゴマ粒程だったものが徐々に、ゆっくりと。


「おお…おおおお…?」


 丸い点が形を変え、何かを形成していく。


「おおおお…っ?」

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