第28章 あたら夜《壱》
蛍を偶然見つけたのは、名も知らない花街の一角だ。
そこから己の眼球を移植したリボンを蛍の足首に結んで監視していたが、靴下や足袋で覆われれば視界も遮断されてしまう。
故に常に紫外線防止として隅々まで肌を隠していた蛍からは、ほとんどの監視は不可能だった。
唯一捉えられたのは、あの鬼狩りの屋敷であろう家の中にいる時と、実際に童磨が蛍の肉体の一部を借りて分身を造り上げた時だけ。
(村の雰囲気は見ればわかるだろうけど、それだけの情報で見つけ出すのは到底不可能だ。ううむ…ならば鬼殺隊の本拠地を見つけ出した方が早いかもしれないな)
凍った女の死体に、鋭い爪先でつんと触れる。
途端に罅が入り、パラパラと霜の付いた肉体も血の海も細かく粉砕され始めた。
目の前で掲げる童磨の掌へ、収束されるように集まっていく。
(それよりも一番の問題は、見つけ出した蛍ちゃんが無惨様に殺されないようにすることだ。蛍ちゃんのことだから、下手したら無惨様に噛み付いてしまうかもしれないし…)
無惨の逆輪に触れてしまえば、上弦の鬼であってもただでは済まない。
最悪、体内の鬼の細胞を操られ呆気なく抹消されてしまうこともあり得るのだ。
童磨の本懐は、蛍を手に入れること。
そしてその身も心も自分のものにすることだ。
心は後回しにしても、肉体は是が非でも手中にしなければならない。
(それさえ回避できれば、いずれは俺の懐に連れ込める)
無惨が飽きさえすれば、後は自分の好きにできる。
この城に連れて来て、果てのない快楽に溺れさせることも。
そうして悠久の時を共に生きるのだ。
「うーん、楽しくなってきた」
掌に収束した血と肉の氷が、丸い球体を作り上げる。
バスケットボールより一回り大きい程度の球体。それが女の全てであったもの。
長い舌で唇を舐め上げて、虹色の瞳が欲に色付き細まる。
それは目の前の餌に対してではなかった。
「早く逢いたいなあ…蛍ちゃん」
鬼の肉体を持ちながら、己は人間だと語る。
彼女を手に入れるその時を、夢見て。