第28章 あたら夜《壱》
煉獄 杏寿郎。
鬼狩りとして在るような、その堂々たる名を口にすることさえ不快感が湧く。
人間が鬼を所有するなど。
それも同族であるはずの童磨に、蛍のことを知った口で語るなと一蹴された。
それこそ誰よりも蛍のことを知った口で、知った顔で、当然の如く語る。
そんな杏寿郎の姿には虫唾が走った。
「あーあ…誰でもいいから、あの鬼狩りを喰ってくれないかなあ…」
自分は男は喰らわない。
あんな男を喰らう気もない。
嗚呼、ただあの男の絶命する顔は見てみたい。
あわよくば己の手で。そしてその様を蛍が目の当たりにしていたら尚のこといい。
(鬼と人間は相容れない。共に生きることはできない。そう教えられるんだから)
そもそもの生きる長さが違うのだ。
童磨が人間であった頃を知っている者など、この世界にはもう無惨以外に誰もいない。
しかしそのことを寂しい・哀しいなどと思ったことはない。
当然のことなのだ。
鬼は人間と共には生きられないのだから。
『教祖様』
「!」
ぼんやりと溜息をついていたところ、遠い襖の向こうから声がした。
名を呼ばれてはっとするとは。気を緩ませ過ぎたと、童磨の背が伸びる。
『そろそろお時間ですが…』
「ああ、うん。ごめんね。まだもう少しかかるから、呼ぶまで待っていてくれるかな」
『わかりました』
襖の向こうにいるのは極楽教の信者の一人。
やんわりと追い返すように声をかけながら、童磨は目の前の血の海に手を翳した。
ぱきぱきと血が一瞬にして凍り付いていく。
やがては女の死体も白い霜で覆い尽くした。
「一先ず蛍ちゃんの探索からかなあ…居場所は不明だけど、あの花街を中心に手を伸ばしてみるか…」
襖の向こうの気配が消えたのを察知して、なんとなしに先を語る。