第28章 あたら夜《壱》
「蛍ちゃんの血鬼術も気になるところですが、俺は彼女自身に興味があります。こちら側へと迎えて染め上げれば、妓夫太郎や堕姫のように強い鬼になるやもしれません」
『……』
どんな言葉であろうと即座に否定していた無惨が唇を結ぶ。
妓夫太郎と堕姫。
血を分けた二人の兄妹は、童磨が遊郭で拾い鬼にした者達だ。
それから目まぐるしい成長を経て、上弦の陸(ろく)の位置にまで上り詰めた。
童磨に他者を見る目があるのは確かだ。
『強い鬼にしてどうするというのだ。猗窩座ならともかく、お前が他者の強さに興味を惹くなど』
「はい。強さには興味がありませんっ」
『……』
またしても予想だにしない選択肢。
爛々と目を輝かせて笑う童磨に、無惨の調子が乱されていく。
だからこの鬼は鬱陶しいのだ。
「俺は蛍ちゃんという鬼のことが知りたい。俺の腹の底をぐるぐると鳴らせる、食欲と似ているようで違うもの。彼女のことをもっともっと知れば、これがなんなのかわかるかもしれない」
鬱陶しさはあったが、童磨の語る姿には少なからず興味が湧いた。
何に対しても一定の感情で、欲というものを見せない。
その童磨が、個の鬼に対して強い興味を惹いているのだ。
渇望こそが進化の兆し。
そう捉える無惨だからこそ、童磨の変化に目を止めた。
『……であれば、抹殺ではなく捕獲を望むのか』
「! はいッ」
初めて見せた無惨の妥協の片鱗。
一層目を輝かせる童磨に、ふむと無惨は視線を横へ流した。
『捕獲であれば、お前には到底不可能だろう。上弦の中で随一に探索能力が欠けている』
「う…それを言われると心が痛い…」
しょんもりと大袈裟なまでに凹む童磨は、いつも通り。
心と言いながら、その言葉に本当に感情はあるのか。
しかし童磨に探知探索能力が欠けているのは事実。
圧倒的な力を持ちながらも上弦の弐止まりでいる理由は、その些細な能力欠如の為だ。