第7章 柱《参》✔
「…こんばんは」
「うむ! 健在ではあるようだな!」
格子の隙間から伝わってくる猩々緋色。
長い通路の奥から現れたのは、私の訓練時の師範に当たる人だった。
私が一時檻の中に待機となった理由は、義勇さんと蜜璃ちゃんしか知らない。
だから無闇に杏寿郎に知らせる必要もないと、義勇さんに訓練を休む口実を頼んでいた。
なんて言い訳してくれたのかわからないけど、これで暫くは下手なことに巻き込まずに済むと思ったのに…三日しか保たなかった。
流石、以前は事あるごとに檻に通い詰めていた人だ。
「どうした彩千代少女! 稽古を休むなど初めてのことだぞ!」
「ちょっと体調が良くなくて…」
「冨岡から聞いている! おはぎを食べて腹を下したとか!」
「……ちょっと、周りが余りに美味しそうに食べてたものだから…」
おはぎで腹下しって。義勇さんもうちょっとマシな嘘ついて下さい。
確かにおはぎ食べてる皆は美味しそうな顔してたけど。
「…ふむ。その腹も治ってはいるようだな」
格子の間から見てくる強い眼は、私の体調を即座に感知したようだ。
「では今宵も稽古といこうか! 宇髄も彩千代少女を組手で伸せずつまらないとぼやいていたぞ!」
ええ…あの人そんなにやる気あったの。
いつもぐちぐち文句言いながら組手に参加してたのに。
逆に言えば文句言いながらも頻繁に顔を見せてたけど。
お陰で大分天元の動きについて行けるようになったけど、組手時の怪我は一層増えた。
あの筋肉忍者も忍者で手厳しい。
柱の継子になるのは大変なことだと思う。
「だ、ダメよ煉獄さん。蛍ちゃんは、まだ本調子じゃないから」
「俺には元気そうに見えるが」
「でも、でもね…っ女の子は時として健気に明るく振る舞う生き物なんです…!」
「そうなのか?」
「そうです!」
…えっと。
蜜璃ちゃんの助け舟はあり難いけど、それ助け舟になってるのかな…。
必死に帰そうとする蜜璃ちゃんに、だけど流石蜜璃ちゃんの元師と言おうか。杏寿郎は一筋縄ではいかなかった。
「ならばその健気さを見せて貰いたい。三日間の休養で、さぞ鍛え上げられたものだろう」
あ。駄目だ。
多分、杏寿郎はわかってる気がする。
私が体調不良なんかじゃないってこと。