第28章 あたら夜《壱》
「大変だ…急いでその重大さを蛍に伝えなければ…!」
「そのことに関しては蛍さんも理解していました。既に鬼殺隊本部にも煉獄さんから報告しているそうです」
鬼殺隊となれば、鬼を狩る専門の剣士達。
珠世達以上に迅速な対応をしていることだろう。
珠世が目を向けていたのは、そこではなかった。
「しかし童磨…ですか…」
「珠世様は、その上弦のことを知っているのですか?」
「…ええ。生きた年月は二百余年程ですが、驚異的な速さで上弦へと登り詰めた鬼です。性格は不明なところも多々ありますが…実直な壱や忠実な参の鬼に比べれば、読めないところも……」
再び考え込むように黙り込む。
一度は無惨と共に行動していたこともあったが、それも遥か昔のこと。
今の珠世には情報が足りない。
それでも搔き集めた中で知る童磨という鬼は、快楽主義のようでいて機械的なところがあった。
特に女に関しては、人間は食料であり時に欲を満たす玩具。
鬼の女に対してはどうだろうか。
(鬼同士の共食いはあっても、童磨程の鬼とあればわざわざそんなことはしないはず…それでも蛍さんに執着したということは、別の目的があって──?)
機械的な童磨が禰豆子のように特異な鬼ではない女に、目をつける理由とは。
「…一先ず、急いで返事を書きましょう」
「っはい」
答えはその場で出なかった。
相手は未知数。そもそもが理解の及ばない上弦の鬼だ。
とにかく今すべきことは、蛍と言葉を交えること。
告げる珠世に、愈史郎もまた緊迫した表情で頷いた。
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「うーむ」
口元にはゆるりと弧を描き、微笑みながら優しく呻る。
虹色の瞳の目尻を柔く緩ませたまま、青白い顔に頬杖をつく。
「それはそれは、今までさぞ生き苦しかったことだろう。よく頑張ったね」
とある部屋の中で。優しく甘く、囁くように呼びかける声に、伏せていた女が顔を上げる。
「ぁぁ…教祖様…」
目に涙を称え、救いを見出したような顔で。
向かいの台座のように高い位置にある座敷。
その中心に座る男──童磨は、誘(いざな)うように女に手を差し伸べた。