第28章 あたら夜《壱》
「童磨…?」
「一度話したことがあるでしょう。上弦の鬼。現在では弐の位に就く男です…っ」
くしゃりと両手で手紙を鷲掴む。
菖蒲色の瞳は動揺を隠し切れず、一心に綴られた文字を追った。
「その上弦が何故…彩千代蛍の所に」
「わかりません。煉獄さんを狙いに来たのか、もしくは──」
「…珠世様…?」
幾度と呼んだその声が、今まで以上に慎重なものとなる。
珠世同様、驚きを隠せない愈史郎の目に映るのは、呼ぶ声も届かない程に手紙を読み漁る姿。
幾枚にも重なる手紙には、一体何が綴られているのか。愈史郎は固唾を吞んで見守った。
「……はぁ…」
やがて珠世の口から、重い溜息を零れ落ちる。
額に片手を当ててじっと何かを考えるように手紙を見つめていたが、やがて愈史郎の視線に気付いた。
「ああ…ごめんなさい。愈史郎」
「いいえ、珠世様は何も悪くありません。しかし…その手紙にはなんと…?」
禰豆子の血の成分が変わったことにも反応の薄かった愈史郎だが、今回は違った。
上弦の鬼となれば、もっとも無惨に近い者。
無惨を殺すという珠世の悲願のきっかけになるかもしれないのだ。
「上弦の鬼…童磨に、出会ったと。偶然の遭遇だったらしいのですが、そこで目をつけられてしまったようです」
「蛍が?」
「ええ。煉獄さんと、共に居合わせた柱とで協力をして倒したようですが…」
「倒せたんですかっ!? 上弦の鬼を!?」
「しかしそれは童磨の複製のようなもの。本体ではなかったようです」
「え…で、では上弦に、蛍の存在が知られてしまったと…っ?」
「そうです」
危惧するところはそこだ。
鬼である蛍も禰豆子も、鬼殺隊に属している限り敵に情報を明け渡してはならない。
禰豆子は既に無惨に目をつけられている。
珠世達といるところを、無惨直属の命で現れた鬼に襲われたのだからまず間違いない。
しかし蛍の存在は、無惨には知られていなかったはず。
自力で無惨の呪いを絶ち、一度人を喰らったものの人間として自我を保ち生きようとする鬼のことは。
それが童磨との接触で知られてしまった。
"敵"とも呼べる鬼側に。