第28章 あたら夜《壱》
鬼女…もとい彩千代蛍。
俺はお前のことなど認めていないが、いつも憂いある表情の珠世様がこうも楽しそうに笑って下さるなら──
「それに愈史郎宛のお手紙もここに頂いていますよ。あの嵐のような手紙は驚いた、と」
前言撤回ッ!!!
「愈史郎も蛍さんとお話したかったのですね?」
「いぃいぃいいいいえ! た、たた珠世様…! 俺はそんな手紙を送った覚えなど…!!」
「けれど確かに愈史郎宛だと…内容も私の知らないものですし…【熱い想いが大層込められた言葉には、至る所に殺意も感じ】」
「珠世様! 珠世様!! 紅茶のお時間にしませんか!?」
あの女…!
もっと身の程を弁えろと密かに送った俺の手紙の返事を何故まとめる…!! 別々に送ってこい気の利かな…わざとか? わざとなのか!?
顔など知らないはずなのに文面からいやしい笑顔が伝わってくるようだ腹立たしい!!!
「ごめんなさい、勝手に拝見して。では紅茶を頂きながらお互いに楽しみましょうか」
「は、はぃ…」
愈史郎が必死に両手を振って紅茶を勧めれば、珠世はくすりと口元を綻ばせてその要求を受け入れた。
愈史郎宛の手紙を渡して頷く。
日頃から忠誠心の高い姿勢を見せている愈史郎のこと。猫の茶々丸にでさえ、偶に嫉妬の目を向けるのだ。
蛍の手紙に同じような目を向けることも、許容範囲と言えば許容範囲。
それでも文通が増えていったのは、少なからず似た境遇である蛍に興味を持ったことと、それ以上に蛍と言葉を交えることの楽しさを実感したからだ。
こんなにも感情豊かに言葉を綴る鬼は早々知らない。
感情豊かと言えば、目の前でぎくしゃくと手紙を受け取る愈史郎も同じだろう。
常に頭の中にある無惨への怒りが、この二人の鬼と関わる時は少なからず忘れられる。
ふ、と名残りの笑みが柔いものへと変わる。
愈史郎の言う通り、紅茶の時間を楽しもう。
そう、自分宛ての手紙を机に置いた時だ。
「…え…」
偶々目に入った綴られた名前に、珠世の顔が凍り付いた。
「珠世様?」
「……ぅ…」
「はい?」
「…童磨、が」
その口から零れ落ちた名は、上弦の鬼。
「童磨が、現れた…っ?」
弐番目の実力を持つ者。童磨。