第28章 あたら夜《壱》
手紙が届く度に嬉しそうに微笑まれる珠世様を思えば百歩。いや千歩譲ってもいい。
同じ鬼同士。更には同性同士。
珠世様にとっては初めての女性の友と言える存在なのかもしれない。
そこでしか生まれない楽しみもあるのだろう。
しかし自分との大事な大事な紅茶の時間を邪魔されるとは何事か。
「神幸祭?…まあ、そんな素敵な催しがあるのね」
手紙に夢中になっている珠世様は、いつもの大人びた瞳を子供のように変える。
自分では体験できなかったことを、鬼女を通じて楽しまれているのだろう。愛らしい。
清らかな水流のような美しさに、花弁を舞い散らせ流しゆくような可憐さが垣間見える。
「愈史郎、蛍さんが煉獄さんとお祭りに行ったそうですよ」
「…そうですか」
出た。煉獄。
鬼女の手紙の凡そに登場する鬼狩りの柱の名前だ。
なんとも地獄の業火のような名前ではないか。きっと珠世様とは程遠い、閻魔のような人相をしているのだろう。
鬼狩りの柱ともなる男だ。概ね当たっているはず。
鬼女も趣味の悪い。
「弟さんとお神輿の掛け声を…ふふっ」
口元に指の甲を当てて、くすりと笑う。
ああ! 流水に舞う花弁だった可憐さに、大華を咲かせたようだ!
弟? 弟とは。煉獄の弟か。
度々鬼女の手紙に登場する少年だったはずだ。
何をしたんだ、弟と。
お神輿? 祭りの延長線上か?
しかし祭り事くらい、珠世様も拝見されたことはあるはず。
何を話したら珠世様はそんな微笑みをくれるんだ?
「あら。愈史郎も気になりますか?」
「えっぃ…いえ、俺は…」
思わず前のめりに体が出ていたらしい。
顔を上げた大華を咲かせた珠世様と目が合って、一気に体が熱くなった。
今日の珠世様は一段とお美しい!
「鬼女の手紙など…」
「そんな呼び方はいけません。鬼であるのは私達も同じなのですよ」
「は…っはい。申し訳ありません珠世様…!」
つい口が滑ってしまった。いけない。
納得はしたくないが、珠世様のお言葉は絶対だ。