第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
しかし疑問も浮かぶ。
火傷の跡を瞬きのうちに治す程の再生力を持っている今、何故体の至るところに杏寿郎が付けた噛み跡は残されているのか。
「だとしたら…これは…?」
そっと首筋に触れる。
そこにはくっきりと獣のように残した噛み跡がある。
「何故この跡は…」
「さあ…わかんない」
返されたのは、なんとも曖昧な返事だった。
「でも、これは残して欲しいと思ったから…だから、残ってるの、かも」
「自分で傷跡の選別ができるのか?」
「…さあ」
「蛍」
「本当、だよ。意図的にやってる訳じゃ、ないから。…ただ」
ゆっくりと上がる手が、首筋に触れる杏寿郎の手に重なる。
「さっきの、陽の光は"痛い"と思った。けど、これは、"痛い"と思ってない」
その痛みすら体を熱くさせるもの。
欲と共に蛍が欲したものだ。
「だから、なのかも」
鬼が傷跡の選別をできるのか。
そんな話は聞いたことがない。
ただ今まで杏寿郎が対峙してきた鬼の中で、己の意思で再生力を上げて傷跡を塞ぐ者はいた。
それに似た力なのか。
正確な判断はつかなかった。
蛍は、姉という肉親を命じられるままに喰らっただけの鬼。
しかしその身体に有する異能は、何体もの人間を喰らってきた鬼と同等のものを持つ。
今ここで考えたところで、明確な答えは出ないだろう。
それでもただ一つわかったことがある。
「本当に、変な癖がついてしまうぞ」
「…いいよ。杏寿郎に貰えるもの、なら」
僅かな痛みが伴うこの行為を、愛の証として蛍が感じているということだ。
意思の一つとしてではなく、それこそ身体全体で。
胸が熱くならない訳がない。