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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし



 陽光は鬼には命取り。

 蕎麦屋の二階を借りる前に調査はしたが、元々決行は夜の予定だった。
 部屋の間取りがどう日差しを入れ込むかなど考えてもいない。

 だとしても、一晩中蛍を抱くと宣言したのは己の方だ。
 蛍への陽光の脅威をつい最近目の当たりにしたというのに、軽率過ぎだと己を強く叱咤した。
 その後悔よりも早く、蛍を庇うように覆い被さり己の肉体で日差しから隠す。


「どこを焼かれたっ? 腕だけかッ!?」

「きょ、じゅろ…っ」

「すぐに何か隠せるものを用意する!」

「ぁ…う、ん」

「一先ず俺の体に隠れて──」

「きょう、じゅろ」


 ぴたりと、幼子のような仕草で蛍の掌が杏寿郎の胸に触れる。
 ぴた、ぴた、と。慌てる様子のない行動に、取り乱していた杏寿郎の目が止まった。


「蛍…っ?」

「大丈、夫。…顔、見せて」

「しかし腕が」

「大丈夫、これくらい。…見て」

「…?」


 拙い声色はそのままに、痛みに耐えているようなものではない。
 そこに疑問を持ち、恐る恐ると顔を上げる。
 手探りに手繰り寄せた布団で蛍を陽光から守るように、包むことも忘れずに。


「…跡が」


 そうして伺い見た蛍の腕に、杏寿郎は目を剥いた。
 確かに先程垣間見た時は、火傷のような跡を浮かび上がらせていた。

 その跡がどこにもないのだ。

 白く細い腕は綺麗なまま。
 あの怪我は見間違いだったのかと錯覚する程に。


「…治った、のか…?」


 それでも確かにあれは見間違いではなかった。
 蛍の体は刹那に受けた陽光でも深い火傷跡を残すことも、把握している。

 まじまじと腕を握り見つめる杏寿郎に、蛍が肩を竦める。


「そう、みたい」

「…しかしこれ程までの再生力は…」

「貰ったから。…たくさん」


 どこか恥ずかしそうに告げてくる。
 蛍の言わんとしていることがなんなのか、自然と杏寿郎にも理解できた。

 今の今まで蛍のなかに注ぎ続けていた。
 己の数多の欲こそが、脅威の再生力を生んだのだ。

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