第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
しかし見た目にはわからないが、射精の感覚はあっても実際に吐き出す刺激はあまりない。
(よもや…ここまで、いくとは)
己の中に溜まった精を何度となく吐き出した結果だ。
それこそ精魂尽きかけるまで、蛍のなかに注ぎ続けた。
いくら鬼の体が精を吸収するとしても、その日の精が枯れるまで注ぎ続ければ、見た目も一目瞭然。
汗と体液とでどろどろにふやけた蛍が、絶頂の余韻に体を染めたまま見上げてくる。
何度果てさせたかもわからない。
ただ一つ確かなことは、杏寿郎が射精した数より遥かに勝る快楽の高みを昇ったことだろう。
「っぁ…」
ぐずぐずに濡れて快楽に染まりきった朧気な瞳は、理性が残っているかも不確かだ。
「…杏…」
ただその瞳は、確かにこちらに向いている。
見失うことなく、求めてくれている。
「…ああ」
そのいじらしい様を見るだけで欲は顔を出し、また理性を繋ぎ止める。
ちぐはぐなようで、杏寿郎には夏から秋に変わる季節の如く当然のものだった。
「…ほたる…」
愛おしげに名を呼ぶ。
名を呼び、頬に触れ、口付けを交わす。
幾度となく繰り返した行為を飽きることなく重ねていく。
否。飽きることなどないだろう。
噛み締める程に、胸の内側から溢れる想いは増していくのだから。
「っ?」
突然に、ちかりと杏寿郎の視界が弾けた。
反射的に目を細め顔を横に向ければ、小さな部屋に唯一ある小窓が見える。
空気は遮断しても、硝子を通して光は伝わる。
杏寿郎の視線の高さを照らしていたのは、一日の始まりを告げる光だった。
(黎明(れいめい)…朝日か)
本当に一晩中、蛍を抱き続けていた。
元よりそのつもりだったが、いつの間に空が白けていたのか。それすら気付かなかった。
まだほんのりと薄暗い白い空を、あたたかな陽光が染め上げていく。
精魂尽きかけ脱力していたのは、杏寿郎も同じだ。
ぼんやりと「ああ朝か」なんてことを思いながら目を細め続ける。
「ぃた…っ」
しゅう、と何かが焼ける音が立つ。
はっとした杏寿郎が見下ろした先──差し込む微かな光を腕に受けて、白い煙を立たす蛍がいた。
「いかん…ッ!」
ぞっとした。