第37章 遊郭へ
それも束の間、次に頭に届いた衝撃はぽかりと拳で殴られるものだった。
「ったくお前はよ。柱様を心配させやがって」
「な…っ」
今度は大袈裟な程に大きな溜息をつかれる。
その目はじとりと蛍を睨んでいた。
「い…今、生きてりゃ上出来だって言った癖に」
「そりゃ最低限な。上出来だからって俺を心配させていいとは言ってねぇ」
「何その屁理屈っ私だって大変だったんだから」
「鬼だろうが。派手に生き延びてさっさと戻って来い」
「相手は上弦の鬼なのッ天元も見たと思うけど──」
つい慣れたテンポで天元と言い合いながら、堕姫を指さしたところで蛍ははっとした。
そうだ、相手は上弦の鬼。天元に何より先に報告しなければいけない情報だ。
「上弦?…ああアレか?」
だが天元はその名称に驚く様子もなく、頸を斬られた状態で座り込んでいる堕姫を興味なさそうに一瞥した。
「ありゃ上弦じゃねぇだろ」
「え?」
「はぁ!?」
続け様にあっけらかんと否定した天元に、驚いたのは蛍だけではない。膝の上で逆さまに転がっている堕姫の頭が牙を剥いた。
「ふざけんじゃないわよ! アタシは上弦の陸よ!!」
「だったらなんで頸斬られてんだよ。弱過ぎだろ」
「て、天元。でも確かにその目に上弦の印である文字が刻まれてあって」
「はぁ? お前もアレと揃って脳みそ爆発してんのか? だったらなんで一瞬で俺に負けるんだよ」
「アタシまだ負けてないからね! 上弦なんだから!」
「負けてるだろ一目瞭然に」
「アタシ本当に強いのよ! 今はまだ陸だけどこれからもっと強くなって」
「説得力ねー」
ぎゃんぎゃんと噛みつく堕姫に、興味のないまま飄々と否定し続ける天元。
口を挟む隙を見失った蛍でさえ、一瞬堕姫に同情したくなる程の存在否定だ。
柱である天元が悪鬼の力量を見極められないはずはない。
そして登場様に瞬く間に堕姫の頸を斬ったことも事実。
ならば天元の言う通り、堕姫は上弦と呼ぶには相応しい実力の持ち主ではないのか。