第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
はぁ、と憂いを残すような熱い吐息。
ぱちり、と濡れた肌が触れる音。
小さな部屋でこもった熱が、空気をしっとりと湿らす。
「は…ッ(…水)」
一晩中吐き出したのは、己の欲だけではない。
杏寿郎の顎のラインを伝う汗が、音もなく落ちる。
乾ききった喉が水分を欲して、軽くなった急須を掴む。
口に含めば、幾度と煽り残り僅かな水は無くなってしまった。
「…きょ……ろ…」
ごくんと喉を鳴らし嚥下したのは、水を飲み込む為ではない。
熱のこもった部屋に、ぽつんと落ちる小さな声。
そのたったひとつの声だけで、己の世界の彩りが変わるかのようだ。
熱を生み、欲を擡げ、胸を鳴らし、唾を飲む。
ひくりとしなる胸元にそっと指を這わすと、杏寿郎はゆっくりと覆うように身を被せた。
「ん…ぅ…」
重なる唇。
口内に残った僅かな水を与えれば、甘い吐息と共に白い頸が喉を鳴らす。
からからの喉に通した所為か、唇を離せば、けほりと小さな咳を零す。
そんな些細な仕草でさえも愛おしいと思う。
「喉は、平気か…?」
散々鳴かせた自覚はある。
優しく問いかければ、濡れそぼった瞳が重なる。
「…ん…」
こくんと僅かに顎を退いて頷く。
その口からは明確な答えは出てこない。
「ぁ…は、ン…」
代わりに続くのは、体温を上昇させるかのような甘い声だ。
当然と言えば当然。
何度も抱き潰したこのふやけた体には、まだ杏寿郎の欲の塊が埋まっているのだから。
「っんぁ…あッ」
「ん…ッ」
しとりと濡れた髪を耳にかけて顔を覗き込めば、ひくひくと限界を迎えた体が踊る。
何度も抱き潰した所為か、幾度となく魅せていた激しい絶頂の姿ではない。
それでも甘く上がる声は杏寿郎の聴覚を刺激し、蜜壺はきゅうっと切なげに締め付けてくる。
抗うことなく、何度目かもわからない欲を杏寿郎もまた放った。