第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「体にもう痛みなどはないか? 稀血の名残は」
「ん、と…頭は、すっきりしてる。お腹も、満たされてる。多分稀血と…杏寿郎、の…貰った、から」
最後はぽそぽそと消え入るように。じんわりと顔を赤らめて目線を逸らす蛍に、杏寿郎の手が伸びる。
鬼にとっての糧となるものを体に浸透させたお陰か。
告げる通り、蛍は蕎麦屋を訪れた時より遥かに顔色がよく見える。
体だけでなく、心も深く通じ合えたからか。
杏寿郎自身も蟠りなどない心地を感じながら、すっかり皺のできてしまった浴衣を摘まみ上げた。
「…ぁ…」
丁寧に和紙で包装された甘味を剥くかのように、はらりと浴衣を捲り取る。
外気に触れて、ひくんと小さな反応を見せる白い体が、薄暗い部屋に浮かび上がる。
何度見ても見飽きはしない。
蛹が羽化するかのように、人工物の中から生まれたままの姿を魅せる蛍の姿は。
「全て脱がせてもいいか」
腕を縛り上げた為に、浴衣を体に引っ掻けたままの形で蛍を抱き潰した。
あの時は見られなかった体の隅々まで視界に収めたくて、優しく問う。
「な…んか、こっちの方が恥ずかしい…」
「ん?」
「一つ一つ、訊かれる方が」
「そうか? 俺は蛍の細やかな反応が知れて嬉しいが」
ゆっくりと腕から袖を抜き取り、一糸纏わぬ姿の蛍を再度見下ろす。
しわくちゃに乱れる真白な浴衣に埋もれる体は、まるで花の中から生まれたかのようだ。
体を斜めに身を捩り、立てた腕を胸元と唇に当てる。
恥じらい残すその様が、また愛おしくて堪らないのだ。
「…綺麗だ」
「………ン」
耳元に吹き込めば、尚も顔は赤みが増す。
相槌とも吐息とも取れない小さな小さな声を零して、蛍は杏寿郎の着物の袖を指先で握った。
「杏寿郎、も……見せて」
それはまるで、初めて蛍と一夜を過ごし結ばれた時に似ていた。
いじらしい、柔らかなあの夜のことを思い出す。