第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「なら蛍が脱がせてくれないか?」
「…うん」
あの夜、初めてあたたかい涙を知った。
心だけでなく身体で満たされることを知った。
溢れては止まることのない、愛のかたちを知った。
蛍の手が、黒い帯紐にかかる。
結び目を解き、掛衿をずらし、引く手で着物を滑らせる。
ぱさりと畳に伏せ落ちる着物に、精悍(せいかん)な杏寿郎の身体が視界を埋めた。
彫刻のような凛々しい体つきも、そこに走る大小の傷跡も、全てが杏寿郎の生きた軌跡の結果だと思うと。なんとも言えない熱い想いがこみ上げる。
「……」
「…そう穴が空く程に見られると、流石に照れるな」
「っご、ごめん」
熱い眼差しを送ってしまっていたのか。
苦笑混じりに告げられて、蛍は慌てて目の前の体から目を逸らした。
「格好いいなぁって。つい」
「む?」
「え?」
つい零れ落ちてしまったのは、裸の本音。
疑問符を上げる杏寿郎に、並んで蛍も語尾を上げてしまう。
「そう…か?」
「あ…いや、ウン。そう、なんだけど…ウン」
初めて体を交えた夜は、綺麗だと思った。
男も女も関係ない、杏寿郎だけが持つその身体が。
その思いは今も変わらない。
ただ上塗りするように、途方もない愛おしさを感じるのだ。
健康的な肌にふわりとかかる金色(こんじき)の髪に、胸は高鳴って。
この腕が、体が、自分を求めて抱いてくれているのだと改めて知ると。
一度燻った想いが、改めて熱く灯された所為か。初めて見つけた想いのように、胸は高まり鼓動は速まった。
「勇ましく見えたか?」
「(勇ましい、とはちょっと違うけど…)ぃ…今の、聞かなかったことには」
「しない」
(だよね)
羞恥がこみ上げるのは、無防備なままに感情音をそのまま口にしてしまったからだ。
まるで惚れ込んだ瞬間を、見つけられてしまったような恥ずかしさが募る。
「蛍。もう一度言ってくれ」
ふにりと、親指の腹が催促するように唇に触れる。
余りにも嬉しそうに杏寿郎が笑いかけてくるものだから、断る理由など見つからなかった。