第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
「言っただろう。望めるのなら、一晩中君を抱いていられる」
鮮やかなその瞳の端に、恭しく口付けをひとつ。
「何百回、何千回だって抱いていたい。蛍を成すもの全てが俺しかわからなくなるまで、染め上げていたい」
掬い上げるように掌を握り、白い手の甲にも口付けをひとつ。
言葉とは裏腹に、優しく甘く、愛おしさを落としていくような行為だ。
「君が予想するよりも遥か深く、俺の性は貪欲だぞ」
しかし蛍は知っていた。
双眸の金輪の縁が、ちりちりと微かに熱を湧かすように揺れている。
その瞳の裏側には、尽きない欲が渦巻いていることを。
その全てが自分だけに向けられている。
それだけで、ざわりと肌が震えた。
寒気でも嫌悪でもない。歓喜の震えだ。
「じゃあ…わからなくして」
大きな掌を握り返す。
「杏寿郎で、私のぜんぶが出来上がるまで。染め上げてくれる?」
導く様に引き寄せて、己の項へと手を回させる。
自然と杏寿郎の手は蛍の髪と項を包み込むと、ゆっくりと互いの隙間を埋め尽くすように距離を縮めた。
言葉はない。十分だった。
触れ合う熱が、既に互いの答えを知っている。
「んぅ…っ」
深く口付けが交わる。
先程の愛を確かめ合うようなものとは一変して、貪るような熱いものだ。
零れ落ちる吐息すらも飲み込もうと、杏寿郎の口が隙間なく塞ぐ。
「んん…っふ、ンむ…っ」
くぐもる少し苦し気な吐息さえも愛おしい。
自然と前のめりになる杏寿郎に押されて、蛍の体が目の前の敷布団に沈んだ。
羽織っているだけの浴衣では、草履を脱ぐよりも簡単に剥けてしまう。
杏寿郎の手が袖を強く掴み引けば、するりと滑り落ちた浴衣に陶器のような肩や胸元が露わとなっていく。
全てを脱ぎ去ってはおらず、多少隠れている様がなんとももどかしくまた欲を煽る。
ほう、と無意識に熱のこもった溜息をつきながら、杏寿郎は蛍の顔の横に手をつき見下ろした。