第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
ただ触れ合えているだけでよかった。
優しいその温もりにいつまでも浸っていたくて、目を瞑る。
──とんてんかん
静寂が包めば、賑やかな外の気配が五感を刺激する。
寄り添うように杏寿郎へと身を寄せたまま、蛍は聞いたことのある音を耳にした。
この小さな部屋で、目を覚ました時に聞いた音だ。
「…?」
ゆるりと瞼を開く。
杏寿郎の胸に頬を乗せたまま、視線を窓の外へと向ける。
見えたのは、夜の村にしては明るい世界。
「…お祭り…」
「ん? ああ」
とんてんかん、と音がする。
音の出所は、金槌を振るうものだった。
出店なのか、看板を屋台のような壁に打ち付けていく男がいる。
よくよく見れば、その男だけではない。
空に道を作るように、提灯を屋根伝いに飾っていく者。
昼間賑わせた神輿をライトアップするかのように、照明を取り付けていく者。
縁日のような雰囲気は正に、祭りの準備の真っ最中だ。
「夜が明るい…」
「君のよく見た花街の夜と似ているか?」
「…ううん」
花街独特の色香漂う空気とは違う。
昼間、神輿を担いで威勢よく駆け巡った杏寿郎達から感じたものと同じものだ。
熱意と高揚と笑顔が迸る、正に夜の祭り事。
「私は、こっちの方が好き」
自然と口をついて出た蛍の言葉に、杏寿郎の口角が緩む。
そんなこととは露知らず。
背を包む腕が、頭を撫でる手が、心地良い。
微睡むように杏寿郎へと身を任せながら、蛍は目の前の景色を楽しんでいた。
「──?」
ふと、視線を感じた。
自然と目線が下りたのは、すぐ手前の道。
見えたのは蕎麦屋の扉の前。
其処に立つ人影が、こちらを見上げていた。