第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
触れ合うような唇の愛撫を、数回。
自然と口付けが深まったのは、どちらからともなく。
「ん…っふ…」
伸ばした舌が傷付けまいとするように、優しく絡み合う。
溢れる唾液を一滴零さず含み取り、味わうように口内を尚更に濡らしていく。
形には残らない想いを、まるで刻み付けるように。
それは欲を見せるというよりも、愛を確かめ合うような口付け。
「ハァ…蛍…」
それでも幾度も繰り返すそれに、体が何も感じない訳ではない。
口付けの合間に熱を帯びた声で囁かれ、蛍の肌がぞくりと震える。
自然と息が上がる中、上下に嚥下する喉をするりと杏寿郎の指の腹が撫で上げた。
「ぁ、ん…ッ」
零れ落ちたのは、鼻の抜けたような甘い声。
鬼の急所である頸。
無防備に晒したそこを刀を握る手で愛おしそうに触れられると、なんとも言えない奇妙な感覚が走る。
剥き出しの命に触れられているような、そんな体の芯から震わせられる衝動だ。
「…ほたる…」
二度目の囁きは、しとりと濡れたような声だった。
その響きだけでわかる。
彼が何を求めて、呼びかけているのか。
「ぁ…杏、寿郎…?」
伺うように濡れた目が問いかける。
杏寿郎もまた、蛍のその瞳の機微だけで疑問の中身を汲み取った。
また体を重ねるのかと、そう問いかけてきているのだ。
確かについ先程まで、立て続けに蛍の体に精を放った。
しかし五度も射精したにも関わらず、杏寿郎の下半身は既に熱を帯び始めていた。
「蛍が欲しい。心は取り戻せたんだ。今度こそ、その身体も隅々まで俺で満たしたい」
赤裸々に全てを語ったのだ。
今更欲深い裸の想いを、語らぬ理由はない。
「…っ」
杏寿郎の剥き出しの欲に、蛍の濡れた瞳が揺れる。
色を灯し、より鮮やかな深くも明るい緋色に染まる。
蛍は気付いているのだろうか。
言葉にせずとも、鬼の片鱗が体の内側にある欲を垣間見せていることを。
(…知らないのだろうな)
だからこそ口角は自然と上がる。
自分だけが知る、蛍だけの持つ欲望の形だ。