第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「はは! 可愛いか。父上が聞いたらどんな反応をするか」
「やめておこう、絶対に渋い顔する」
「そうか?」
「そうそう」
言いながら蛍が渋い顔へと変わるのを、また笑みを称えて見守る。
「それで、無事宿題はできたの?」
「うむ。自力で調べたんだがな。結局わからず終いで、父上に答えを教えて貰ったんだ」
「そうなんだ…その答えって?」
「蛍は雄が光を放つ。雌を誘い、番(つがい)となる為だな」
「ふんふん」
「だから輝くのだそうだ。ここは安全だと、知らせる為に」
「安全…?」
「身を寄せ、愛を育み、家庭を作る。ここが帰る場所だと知らせる導のようなもの。その為の光なのだと」
「…ふぅん」
果たしてそんな理由だっただろうか。
蛍も夏場に儚げに光る虫の意味を詳しくは知らなかったが、不思議とその"答え"は胸の内にすとんと落ちた。
納得したというよりも、らしいと思ったからだ。
(瑠火さんを、あんなに愛していた人だから)
家族への愛は、とても大きな人だったのだろう。
それは影鬼の中で触れた記憶でも、感じ取れた。
「それって槇寿郎さん自身みたいだね」
「父上、か?」
「うん。それと、杏寿郎も」
「?」
頸を傾げる杏寿郎の、ふわりと夜風に揺れる髪を見て微笑む。
「金獅子みたいな、明るい髪。人ごみに紛れても見つけられる」
きょとんと向けられていた金輪の双眸を見て、頬が緩む。
「お月様みたいな綺麗な瞳。それこそ私にとって、闇夜で導いてくれる優しい光」
柚霧の時に見つけられた、杏寿郎を成すものたち。
日向のように、月夜のように。
「私の帰るべき所を、教えてくれるものだよ」
柔らかくあたたかな髪を手櫛で梳いて。
目が離せなくなる瞳の金の縁を視線でなぞって。
惹かれるように身を寄せれば、背中に添えられた大きな掌が抱き寄せ包み込んだ。
在るべき所は、この腕の中だと云うように。