第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
「それで?」
改めて問う。
蛍の確信に満ちた瞳に、杏寿郎の舌は危機回避へと回らなかった。
「…蛍が求めたら、だ。でなければ抱く気はなかった」
張りのない声が、裸の本音を漏らし出す。
「だが一度でも君が体を許したら、その時はなりふり構わず抱こうと決めていた。どんなに君が後から後悔しようとも、抗おうとも止める気はなかった」
「…だから此処に連れ出したの?」
「そうだ」
稀血に耐える訓練であることも勿論理由には入っていた。
しかし何より原動力になっていたのは、燻る想いと昼間見た蛍の顔だ。
「俺ではなく不死川の血を求めたことに、正直苛立ちを感じた。蛍の意見も尤もだと頭ではわかっていても、納得できなかった」
「でも…それじゃあ、この先杏寿郎の血だけ求めることになってしまうよ。杏寿郎だけに負担をかけさせるのは、嫌だな」
「ああ。わかっている。…童磨や与助のこともあったからだ。だから尚の事許せなかった。何故俺ではなく、他の男に手を伸ばすのか。心身に傷を負っているならばこそ、今は俺を求めて欲しかったんだ」
「……」
「独りよがりの我儘であることは自覚している」
「…ううん」
しゅんと下がる杏寿郎の顔を、そっと下から覗き込む。
そのまま流れるような動作で柔らかな唇に己のそれを重ねると、ぽふんと胸に飛び込んだ。
「ん、む…蛍?」
「私、今杏寿郎で胸がいっぱい。…教えてくれてありがとう」
言葉にはならない感情が胸の内をひしめき合う。
嬉しいと思う。
しあわせだと感じる。
甘く優しい感情に満たされるのに、同時にぎゅっと心の臓を鷲掴まれたようだ。
目の前で分かち合う体温が、愛おしくて仕方がない。
「そんな他愛のない言葉でいいの。その想いの欠片を知れただけで、こんなにも心は軽くなる。…そんなことができるのは杏寿郎だけだよ」
「…軽く…なれたのか?」
「うん。童磨や与助なんてどうでもいいよ。今ここに在るものが、私のすべてだから」
噛み締めるように告げる蛍に、杏寿郎の唇がきゅっと結ばれる。
手繰り寄せるように背を抱き上げれば、胸に埋められていた蛍の顔が上がる。
今度はゆっくりと、隙間を埋めるように唇が重なった。