第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
「そう心配しなくても店の者達は口外したりしない。あの男もそうだ。絡み方は軽いものだが、鬼殺隊のことも知っている者にしか話さない」
「でも…だからって…」
「まぁ俺は口外してくれてもいいのだが」
「へ?」
斜め上をいく杏寿郎の回答に、素っ頓狂な声が上がってしまう。
焦る蛍とは裏腹に、杏寿郎は始終冷静な顔で笑っていた。
「これで君は誰のものか。俺は誰のものか。村の者達にも伝えられるだろう?」
「そ、そんなことわざわざ言う必要…」
「ないとは言い切れない。知らなかったから、静子殿も八重美さんとの婚約を薦めてきた」
「……」
それを言われてしまえば反論の余地はない。
なんだかむず痒いような、気恥ずかしいような。
嬉しさもある反面、恥ずかしさもやはり残る。
「安心していい、部屋の造りはしっかりしてある。窓を開けるまで外の物音も聞こえなかっただろう?」
赤い顔のまま俯く蛍に、杏寿郎の眉尻が優しく下がる。
顔が緩んでしまうのを止められないまま、蛍の鮮やかな頬に手を添えた。
「…ほんと?」
「ああ。下調べはしてある」
「下調べ?」
「…飢餓抑制に使う為にな。蛍が万が一暴れても大丈夫なように」
杏寿郎の言葉は一理ある。
しかし部屋の隅に転がった使用済の張型やロープを見て疑問は浮かぶ。
「…杏寿郎」
「ん?」
「もしかして…抱く為に連れてきた?」
どれも体を重ねる上で初めて使うものだったのに、やけに手慣れていた。
知識だけではなく、この部屋ですることを知っていたかのようだ。
じっと目を見て問えば、いつもはすぐ回る杏寿郎の口は閉じたまま。
笑顔を浮かべているが、それもどことなく固まっているように見える。
「…いや」
「はい嘘。絶対嘘!」
「待て蛍話を」
「聞かなくてもわかるもん。あの通和散もそう! わかってて張型に使ってた…ッ」
「それはだな」
「あの店員の女の人だってそういう目で私達を見てたしッ杏寿郎も否定しなかったし!」
「別に言うことでは」
「あの稀血だって本当に静子さんの」
「待ってくれ蛍! 話を聞いてくれ!」
「……わかった? いつも言葉遮られる私の気持ち」
「…とてもよく」
「よろしい」