第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「幼い頃、一度だけ直接見たことがある。任務から帰宅した父上が連れ帰ってくれたんだ」
千寿郎がまだ一歳半程の頃のこと。
父の任務がなんであるか。鬼とは何か。鬼殺隊とは。柱とは。
知れば知る程父への尊敬や憧れは強くなり、いつからか起きて帰りを待つと、母の催促も聞かずに夜更かしばかりしていた。
真っ直ぐに向けられる家族の愛に、また真っ直ぐに答える人柄だった槇寿郎。
初めて持った我が子の帰り待つ姿が、愛らしくて仕方なかったのか。踏んだ土地の菓子や玩具など、手土産となるものを持って帰ってくることも稀にあった。
そんな中、一際杏寿郎の記憶に残っているものがそれだ。
『おかえりなさい、父上!』
『ああ。ただいま杏寿郎。母と弟をしっかり守ってくれていたようだな』
『もちろんです!』
『偉いぞ』
くしゃりと、掻き撫でるように頭に触れられる。
父のその大きな掌が好きだった。
その手がその日、小脇に抱えていたのは小さな木箱。
何かと杏寿郎が興味を示せば、灯りを消して暗くした部屋。這った蚊帳の中で箱の中身を見せてもらった。
暗闇の中で、音もなくふわりと灯る蛍光(けいしょく)。
ひとつ、ふたつと増えていくそれは、小さな虫の尾から発せられていた。
『父上、これは…っ?』
『蛍というんだ。近くの野川で見つけてな。どうだ、綺麗だろう?』
『なぜひかっているのですか!? 炎もともしていないのに…!』
『はは。蛍の光は炎とは違うぞ』
『ではなんなのですかっ?』
『む? そう、だなあ……』
『…父上?』
『そ、それは、だな。…宿題だ!』
『しゅくだい?』
『鬼殺隊足るもの、鬼の観察・見極めも大事だ。瞬時に立ち回れるよう』
『なるほど…っさすが父上です!』
『うむ。蛍の光の正体は、次の任務の帰りまでに杏寿郎に答えを貰おうか』
『わかりました! 父上が留守のあいだ、しっかり勉強しておきます!』
「…そんな可愛い会話したの? 槇寿郎さんと」
「可愛いか?」
「凄く」
聞かされても想像できない、子煩悩な槇寿郎の姿。
真顔で深く頷く蛍に、杏寿郎は声を上げて笑った。