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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓



「特別だなって。そう、思っただけ」

「ああ。俺にとっても何にも代え難いものだ」

「ん」


 理由は別に伝わらなくてもいい。
 ただ目の前で指を絡め繋がっている彼が、同じに特別だと笑ってくれるなら。

 絡めた小指を軽く揺らして、そっと離す。


「蛍って久々かも。子供の頃はよく姉さんと見たけど…月房屋で働き出してからは、全く見なくなったから」

「では姉君との思い出なのだな」

「うん。そうかもね」


 人里からそこまで離れた場所ではなかったが、土地を選ばなければ安い金でも買える場所。
 故に自然に近い所に住んでいた為、季節になれば淡い命を灯す虫達はよく拝むことができた。

 姉とふたり。
 手を繋いで川のせせらぎを耳にしながら見上げた光景だ。

 思い出すように話す蛍に、耳を傾けながら杏寿郎の目が細まる。
 蛍の過去を知れることは、僅かな片鱗でも嬉しいものだ。


「大人になるにつれて、見なくなったものなのかも」

「ふむ…俺は逆だな」

「そうなの?」

「幼い頃はまだ父上も稽古を付けてくれていたから、鍛錬ばかりに励んでいた。余暇の時間も勿論あったが、夜は基本外出をしない」

「…藤のお香を炊くから?」

「そうだ。夜は父上が鬼殺に出る時間帯。決して外を出歩かないようにと厳しく言われたものだ」

「そっか…」


 千寿郎も同じようなことを言っていたと、思い出す。
 だから夜の外出はほとんどしたことがないのだと。


(槇寿郎さんが変わったのは、千くんが凄く幼い時だから…尚のことなのかも)


 外出ならまだしも、夜遊びのようなことはしたことがないのだろう。
 それでも心を曲げず、他人を思いやれる優しい少年に成長した千寿郎を思う。


「だから初めて自然界で蛍火を見たのは、隊士として俺も夜の任務に就くようになってからだ」

「自然界…?」

「うむ」


 引っ掛かる単語に蛍が頸を傾げれば、杏寿郎の顔が尚の事綻ぶ。

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