第7章 柱《参》✔
「今、なんて……鬼?」
「鬼って言ったよな…」
「でも…いや、柱ともあろう方が間違える訳ないし…」
「でも二月で柱になった人だぞ? 見間違いでも…」
ざわつく隠達に、蛍の背に冷たいものが走る。
こんなに大勢の人がいる前で鬼だと知られたら隠しようがない。
「ふッ!」
「!」
咄嗟に無一郎の足首を掴み、渾身の力で払う。
めきりと蛍の腕に浮かぶ血管とその腕力に、無一郎は顔色一つ変えず飛び退いた。
「やっぱりね。人間なら俺が力負けするはずないし」
「む、無一郎くん待って! その子は蛍ちゃんなの!」
「ほたる?」
慌てて告げる蜜璃に、無一郎は頸を傾げるばかり。
柱であるならば蛍のことは聞かされているはずだ。
しかし少年の反応は違っていた。
「誰、それ」
本当に知らないかのように、不思議そうに蛍を見る。
否や、その手元が動いた。
「ッ!」
咄嗟に身を起こした蛍だが一歩遅かった。
パキン、と呆気ない音と共に、口を塞いでいた竹筒が縦に割れ落ちる。
無一郎の素早い抜刀による切断。
「…ぁ…」
微かに漏れる蛍の声。
その口から覗く牙を一瞬、垣間見た。
「ムグッ」
しかしそれはほんの一瞬で、無一郎が瞬いた時には目の前に蛍の体はなかった。
代わりに立っていたのは半柄羽織の水柱。
片手は蛍の口を鷲掴んで塞いでおり、対峙する二人の間に立っている。
「やっぱり」
しかしそれが無一郎にとっては決定打だった。
一瞬でも確かに見えたものは、鬼にしかないものだ。
そしてそれを抑え込もうとするのは、危険性があるからに他ならない。
「冨岡さん、いつから鬼を連れて出歩くようになったんですか?」
純粋な問い掛けなのだろう。
下手な意図などは何もない。
だからこそ無一郎のその問いに、義勇は無言できつく眉を寄せた。
嘘偽りのない声は、より他人に響く。
「うそ…本当に鬼なのか…っ?」
「マジかよ…!」
「な、なんで鬼が鬼殺隊の本部に…!?」
青褪めた隠達から、一斉に動揺が広がった。