第7章 柱《参》✔
「あ、そのおはぎは蛍ちゃんが作ったのよ」
「……」
「蛍ちゃん、彼は時透 無一郎(ときとう むいちろう)くん。柱の一人で、霞柱を担ってる男の子なの。刀を握って二月で柱になった凄い男の子なのよっ」
じっと無一郎を見ていた蛍に、蜜璃が代わって自己紹介をする。
言われずとも無表情のその少年が柱なのは概ね検討がついていた。
(後藤さんの言う通りだ。纏うものが違う)
後藤の言っていた空気感も然り。
そして、蛍にだけ見える"色"もそうだ。
蛍自身上手くは説明できないが、隠達の宿す色と柱の宿す色は違って見えていた。
無一郎から伝わってくるのは白群色(びゃくぐんいろ)。
空色のように霞んではいるが、それよりももっと灰みのある青色。
そんな白群色が無一郎の体を纏うように、霞がかっている。
「…ふぅん」
蛍の姿と手元のおはぎを交互に見ると、なんとも無関心な相槌を無一郎は向けた。
更に手元のおはぎをもぐもぐと食べ続け、終えるとパンと手をはたく。
「ご馳走様」
すると草履も脱がずに、そのまま縁側へと立った。
室内へと向き直り、眠たげにも見える視線が蛍へと向く。
男であるが、幼さも相俟ってか一見すると女にも見えなくはない。
義勇とは別の意味で整った顔立ちをした少年だった。
何か、と目で問い掛けた。
否、問い掛けようとした。
蛍の視線がぐるりと回っていたのは、その直後。
ダンッ!
「ッ!?」
急に世界が回った。
背中に痛みを感じると共に、視界に無一郎の顔が近く入り込む。
「それは別にいいんだけど、」
待機所の天井を背景に、無表情に見下ろしてくる無一郎の顔。
その時になって蛍は、仰向けに踏み付けにされているのを悟った。
全くの無防備だった。
まさかこんな所で、実弥のような扱いを受けるとは思っていなかった。
驚きに満ちる蛍の表情を淡々と見下ろしたまま、無一郎は帯刀した鞘を握った。
「なんで此処に、鬼がいるの?」