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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓



「でも…だって、なんか杏寿郎らしくない…」

「では問うが、俺らしいとはなんだ?」

「え」

「本来、俺が在るべき形は煉獄の名を持つ炎柱。ならば鬼である蛍とこうして共にいること事態が矛盾となる。今の俺は、俺らしくないか?」

「……」


 何をもって"杏寿郎らしい"と言えるのか。
 改めて考えれば、他人が軽率に口にできることでもない。

 唇を結んだまま、ふるりと頸を横に一度振るう。
 蛍のその弱い応えに、ふ、と杏寿郎の眉尻が緩み下がった。


「童磨とのこともそうだった。テンジとのことも。今この場で知った蛍の思いについても」


 頑なに強く線を引いていた口角が、僅かに上がる。


「君が関係すると、君のこととなると、どうにも感情が理性を置いて突っ走る。まるで十(とお)ほどの子供になってしまったような気分だ。…理屈の成り立たないことも、筋の通らないことも、口にしてしまうらしい」

「……とお、のこども…」


 力のない、苦く混じる弱い笑顔。
 鬼殺隊の柱でも煉獄家の長男でもない、ただ一人の男の素顔を前に、蛍の頭を過ぎったもの。


(十歳って、確か…瑠火さんを、失くした頃の)


 煉獄杏寿郎、齢十歳。
 それは最愛の母である瑠火を病気で亡くし、また尊敬していた炎柱としての父の姿も失くした幼少期。
 同時に子供の顔を捨て、これからは自分が煉獄家を支えていくのだと決意した歳だ。

 十歳など、本来ならばまだまだ親に甘えたい年頃のはず。
 それら全ての甘さを放り、千寿郎の為に兄として、時には父や母として接していたという。


(じゃあこれは──…)


 支離滅裂なまでも、己の願望を口にする。
 それはまるで、杏寿郎が十年前に置いてきた心のようだった。

 幼い、たった十歳の子供の。


(杏寿郎の、)


 あまい我儘だ。

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