第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「俺は俺の人生を賭けて蛍を求めたんだ。それでも君から目を逸らすことがあれば、それは俺の方が可笑しい」
「いや…それは断言できないでしょ。人の心は移ろいゆくものだから」
「俺は移ろわない」
「ぅ…うん。勿論、信じてる。でも可笑しいとか、間違ってるとかそんなふうには思わないよ。それも杏寿郎の心で生まれた感情で」
「断じて違う」
「全否定!?」
自分自身のことでありながら、それは己の心ではないと否定する。
ある意味矛盾の生じる意見に、蛍は思わず声を上げてツッコんだ。
「だから君も俺を否定しろ。そんなはずはないと、あるべき姿勢に戻してくれ」
「そんな無茶な…杏寿郎の心は、杏寿郎のものなのに。一番わかっているのは杏寿郎自身でしょ? それを私が正すようなこと、できるはずが」
「君も同じようなことを言っただろう。俺が可笑しいと思うのなら、殴ってでも止めていいと」
「…それは…私達の今の関係が、あるからだよ。お互いに信頼しているから。だから、杏寿郎の言葉になら耳を傾けるって意味で言ったの」
「俺も同じだ。君の言葉になら耳を貸す。だから怒鳴ってでも止めてくれ」
「それは、立場が違うよ。だって杏寿郎が、私から離れたらってことでしょ? そこにはもう私達の今の関係は、ないってことでしょ…心が離れたのに、そんなこと言える訳が」
「離れたりしない。断言できる」
「…ぇぇぇ…」
ああ言えばこう言うような、答えの見えないやり取り。
(言ってることが、なんか、すごい無茶苦茶なんだけど…)
普段杏寿郎が口にすることは、正論が多い。
一見無茶なことを口にしているようでも、よくよく考えれば納得できるような理由が根本にあった。
柱故に常人らしかぬ思考を持つこともあるが、それは他柱も同じ。杏寿郎一人だけではない。
そんな杏寿郎からは想像もつかないような、支離滅裂な言動に空いた口が塞がらない。
「どうした、の……変な物でも食べた…?」
「朝餉も昼餉も夕餉も、蛍と千寿郎が作ってくれたものしか口にしていない。至極美味かった。お陰で体も思考も快調だ」