第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
ただ実弥と違うのは、そこには在るのは家族愛ではない。
杏寿郎への並々ならぬ想いと、そして──
「ああもう、やめようこの話。変なこと言い出してごめんっ」
先に話を止めたのは蛍だった。
裸の言葉で向き合いたいと思ったから、余計なことまで口走ってしまった。
杏寿郎の言葉通り、"もしも"なんて可能性の話をする必要はない。
信じて疑わない互いの想いがあるのだから。
「杏寿郎の言う通りだよ。"もしも"なんて可能性、話すだけ無駄だよね。ごめ」
「駄目だ」
「…ええ…」
これで終わりかと思えば、未だ真面目な顔で同じ言葉を繰り返す杏寿郎に阻まれてしまう。
思わず力無き驚きが蛍の口から漏れた。
「でもさっきもしもは要らないって」
「さっきはさっき。今は今だ。ここで終わらせる気はない」
「…ぇぇぇ…」
頭の回転が速く、行動力が強い。
杏寿郎の長所とも言えるそれらは、言い換えればせっかちで後先考えずに突き進む。短所とも言えるもの。
そして頑なまでに、頑固なところは頑固なのだ。
「聞き捨てならないその思いを、有耶無耶に終わらせたくはない。──蛍」
「え。はい」
「テンジとのこと。また同じことをしないとも限らない為に、その時は己を殴ってでも止めていいと言ったな」
「…うん」
「ならば俺も俺の要望を言おう」
「要望?」
「追いかけてくれ」
「…?」
真っ直ぐに貫くような双眸で。
真っ直ぐに向けてくる要望。
その真意が一瞬掴めず、蛍の頸が横に傾く。
「俺が背を向けるからと、君も俺に背を向けるな。俺が離れようとするなら、追いかけろ。追いかけて、捕まえて、自分を見ろと叱咤しろ」
「…ぇ…」
「"鬼だから"と、簡単に諦めてくれるな」
簡単な決意ではない。
諦める気もない。
それでも杏寿郎を想うからこそ、彼が"人間"だけの世界を望む時は鬼の自分は退くべきだと思っただけだ。
それらを見透かされたような言葉に、息を呑む。