第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「追えない、とは…諦めるつもりなのか?」
「諦める気はないよ。ただ杏寿郎が大切だから、何よりその想いを尊重し」
「駄目だ」
「たい……ってまだ」
「駄目だ」
「言い切っ」
「駄目だ」
「てな」
「駄目だ」
穏やかに分かち合っていた空気が、がらりと変わる。
蛍が何を言おうとも、強張る程に真面目な表情で告げる杏寿郎の言葉は一つだけだ。
「ここまできて俺の想いを疑うのか? 逃げることは許さない」
「ぅ、疑ってなんかないよ。逃げる気もない。もしもの」
「ならば"もしも"は要らないだろう」
「そのすぐ会話遮るのやめようっ」
感情が暴走した杏寿郎の舌先に、瞬く間に黙らされることは多々あった。
頭の回転が速い彼は、口の回りも速いのだ。
「私の想いが変わる気はない。意思じゃなくて、心でわかるの。私が鬼だから。でもだから、"鬼(それ)"で杏寿郎を縛りたくない」
槇寿郎に聞かされた、杏寿郎の決意。
鬼として蛍が死を迎えた時は、共に地獄に堕ちると云ってくれた。
嬉しかった。
哀しかった。
愛おしかった。
涙が溢れた。
そんなことまでさせられない、という思いは生まれたが、それ以上にただただ熱い洪水のような愛おしさが溢れ返った。
十分だ。
死んで尚、杏寿郎の想いを手にできるのなら。
そんなに幸せなことはない。
それ以上、望むことはない。
だから決意したのだ。
槇寿郎との約束を誓い合った昨夜。
同じに杏寿郎を大切に思うが故の、父としての啖呵を見たあの日。
杏寿郎の愛する世界の中にいたい。
勿論それは常日頃から望んでいる。
しかしその愛する世界の中で、自分が不要なものとなった時は。
(不死川なら、きっとそうする)
世に蔓延る悪鬼や、また自分という鬼からも守っていたいと思った。
愛する彼が、また愛する世界だからこそ。
大切な家族が、愛に満ちた世界で生きること。
それを何より望む実弥の並々ならぬ決意は、自然と理解できた。
それを壊す原因に自分がなるのなら、邪魔なものと切り捨てることも。