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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓



「最初はね…私の持ってる汚いもので、杏寿郎を汚しているみたいで嫌だった。私の汚さが、伝染していくみたいで…でも、今はもうそうは思わない」


 狭い部屋の中でだけ生きる、廃れた金魚であった姿も。
 陽の下には出られない、夜の闇だけで生きる今の姿も。
 どんな姿であっても、杏寿郎が向けてくる瞳は変わらなかった。

 蛍、と受け入れる声も。
 柚霧、と認めた声も。


「そんな私だから、杏寿郎は好きになってくれたんだって。そう、思えるようになったから」


 決して自意識過剰な思いではない。
 何度も言葉を重ね、想いを繋げ、体温を分かち合い。
 心の底から感じられる程に、杏寿郎自身が示して教えてくれた。


「だから迷ったりしない。上弦の鬼や月房屋の男なんかに、私は染められない」


 身も心も溶けてひとつになる相手は、ただ一人。


「私を染められるのは、杏寿郎だけだから」


 ゆっくりと顔を上げる。
 離れて見えた互いの顔に、視線が交わる。

 視線を絡めて、音のない吐息をつく。
 自然と惹かれ合うように僅かな隙間を埋め合った。

 今度は、迷うことなく重なるふたつの影。
 そっと触れ合うだけの口付けは、今夜交えたどの接吻よりも、深くふかく胸のうちに沈み込む。






「…ふふ」


 恭しい仕草で、そ、と離れる。
 再び視線が交じり合えば、気恥ずかしそうに蛍は笑った。

 昼間、日光浴中に幼い姿で魅せてくれたものと同じだ。
 ついこちらの身からも余分なものが抜けてしまう。そんな心と体を解させる、緩い笑顔。


「…よかった」


 その笑顔を見つめながら。つられて緩むというよりも、ほっと安堵の苦笑が杏寿郎に浮かぶ。


「俺の存在が、少しでも蛍の支えになれていたのなら」

「少しじゃないよ。すごく大きなものなの」


 照れ癖のある蛍だが、杏寿郎が望む言葉を、想いを、欲する時には必ずくれるのだ。


「見えていなくたって、心は傍にいてくれるから」


 飾り気も何もない、真っ直ぐに届く裸の言葉で。

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