第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
愛おしげに告げる杏寿郎の一つ一つに、緋色の瞳が揺れ動く。
そこに滲む雫を零さないようにと目を瞑ると、俯いた。
否。頭一つ分もない隙間を埋めるように、杏寿郎の胸に顔を埋める。
「…私ね。月房屋で働いていたこと、胸を張れはしないけど。でも、汚点だとは思ってない」
己の人生を悲観するのは嫌いだ。
そんなことをしても誰も同情なんてしてくれないし、そもそもそんな同情など望んではいない。
仕方がないものだったと、既に蛍の中で吞み込めている事実。
それでも胸が熱くなった。
否定でもなく、同意でもなく。その世界を、生き方を知らないからこそ捉え方も違う。はっきりと自分は君とは違うと断言しながら、それでもその心が欲しいと言う。
泣きたくなるようだ。
胸の奥から込み上げる熱いものが目頭と喉にとどまって、感情を噴き出させようとする。
ありのままの自分を無条件に求められることが、こんなにも幸福なことだったとは。
「ただ、自分が綺麗じゃないものだってことはわかってる」
「…蛍」
「いいの。それでも、いい」
そう告げれば、杏寿郎が返してくる言葉もわかっていた。
今は大丈夫だと、広い背中に両手を添えてやんわりと答えを止める。
「どんなに嫌なものに染められても、汚れても。杏寿郎が求めてくれるだけで、いくらだって満たされるの。今の私のままでいいんだって、疑いもなく思える」
「……」
「だから私は、立っていられる。何度だって」
童磨はそんな蛍を、切り替えが早く負の感情を引き摺らないと、さも都合の良いもののように捉えて褒め称えていた。
その考えには誤りがある。
切り替えが早いのではなく、見ていたいものがなんなのか蛍自身が知っていたからだ。
童磨や与助のような男達に目を向ける暇などない程に、心を占めている相手がいるからだ。
「杏寿郎に愛されると、ひとつになると、同じになれるような気がするから」
「…同じ…?」
すぅ、と埋めた胸の穴で深く吸い込む。
温かく懐かしい匂い。
「お日様みたいに、優しくて綺麗なもの」
身体だけでなく心まで癒し満たしていく、陽だまりのように。