第7章 柱《参》✔
「だって菊池! 後藤があんなふうに女の子に話し掛けに行くことなんてあったか!? 手まで握って!」
「単に話し易かっただけでしょ。そして手は握ってないから蛍さんから握ってるから」
「蛍ちゃん か ら…! チックショォオオ!!」
「ごめんあたしが間違えた! 握ってるんじゃなくて名前教えてるだけだから! 勘違いしないで!!」
「…煩いなぁ」
「煩い!? この私の複雑な心境をわかるはずが──」
「ちょっと! 他人に八つ当たりなんて──」
涙ながらに怒りの形相を上げる前田と、そんな前田に対し苛立ちの表情を浮かべていた菊池の声が、同時に止まる。
「折角一休みしてたのに。邪魔しないでくれるかな」
その二人の目は、縁側で外を眺めるように座っている人影に向いていた。
体には見合っていない大きめの鬼殺隊の服を着た、毛先が青みがかった黒い長髪の少年。
もそもそとその口が咀嚼しているのは、蛍お手製の抹茶おはぎだ。
しかし彼が風呂敷からそれを取り上げた姿は誰一人見ていない。
いつから其処にいたのか。
突如として現れた十四歳の幼い少年に皆の視線が集中する。
「……」
「まぁ!」
義勇と蜜璃だけは驚きなどしていなかった。
帽子と口布をしていない少年は勿論隠ではない。
そしてその顔をよく知るからこそ、隠達は皆息を呑んだ。
「これは時透殿! 貴方様も休憩されていたのですね。気付かずに申し訳ありません」
「別にいいよ。別室で寝てたら起こされたけどね」
深々と頭を下げる隠の長は、顔は見えないが年配であるのはわかる。
その彼がへつらい、幼い少年が上からものを言う。
それが許されるのは階級に違いがあるからに他ならない。
「私達が隠さん達の会議を邪魔しちゃたから、皆は悪くないわ。ごめんね無一郎くん」
「み、蜜璃ちゃん…!」
「女神様…!」
「天女様…!」
「俺やっぱ甘露寺様に一生ついていく…!」
慌てて助け舟を出す蜜璃に、隠達の土下座に似た感謝の舞が起こる。
しかし無一郎と呼ばれた少年は感情の起伏一つない、淡々とした表情のままだった。
「気にしてないので。おはぎも食べられたし」