第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「何故、面倒だと思うんだ?」
「え?」
ようやくそこで口を開いた。
真っ先に問いかけたのは、純粋に疑問を感じたことだ。
「前にも似たようなことを言われた時、君は君のままでいいと伝えたはずだ。蛍が面倒だと思っても、俺はそう感じないと。それでも俺が、迷惑だと感じると思ったのか?」
「それは…そうは、思ってない」
責めるつもりで問いかけた訳ではない。
ただ疑問を抱いた。
何故そこまでして、蛍は一人で立とうとするのか。
「では過去誰かに、言われことがあるのか」
「言われ…ては、ないと思う」
蛍の返答に、ふむ。と考え込む。
今まで見てきた蛍の姿、知ることのできた柚霧の姿。
全てをかけ合わせて、杏寿郎の頭に浮かぶのは一つの答えだった。
「では…蛍自身が、そうしなければならないと感じていたのだろうな」
「私、自身?」
「何も知らない俺がこんなことを言うのは、差し出がましいかもしれないが…それは君の意思というよりも、君の心に浸み込んだもののように思う」
人間の頃の蛍のことは、一切何も知らない。
聞いただけの情報しか持っていない。
しかし姉や月房屋という、他者に身を捧げることばかりを日常としてきた蛍には、その習慣が染み付いていたのかもしれない。
『あの子が謝るのは、癖みたいなもんだよ。こういう場所では女は常に踏み台さ』
導き出した理由の一つは、松風が教えてくれたものだ。
常に誰かの顔色を伺い、従わされることで生きてきた。
だからつい口に出る謝罪は、癖のようなものだと。
そんな道を歩んでいた蛍だからこそ、嫌悪することを「面倒」などと思うのかもしれない。
「何度でも言おう。君は面倒だと言うが、俺にはそうは思えない」
「杏寿郎は、優しいから…」
「それは違うぞ」
蛍だから、という思いは勿論ある。
彼女のことならなんだって受け止めようと、いつだって両腕を広げていられる。
しかしそれとはまた違う思いがこみ上げた。