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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓



「ごめんなさい…杏寿郎は、違うのに。その…普通、とは違う感覚でしか、捉えられなくて」

「……」


 辿々しく、探るように蛍が吐露していく。
 謝る必要などないとすぐさま否定はできたが、呑み込んだ。
 懸命に言葉を絞り出していく蛍を、止めたくはなかったからだ。


「慣れては、いるけど……何も、思ってないわけじゃ、ないの。柚霧の時は、仕事と割り切っていたから、感情を無にできた。でも、童磨との時は…違って、いて」

「……」

「与助とは、一線は、越えてないよ。それだけは死んでも嫌だったから抗った。…でも、守るものの為なら…普通に、奉仕だって、できてしまう」


 ぴくりと、杏寿郎の口の端に僅かな力が入る。


「そんな自分が…なんだか、虚しく感じた。気持ち悪いって、思った」

「……」

「童磨の時も…そう。どんなに心で否定しても、感じてしまう自分に、吐き気がした」


 反して、蛍の口元には僅かな笑みが浮かぶ。


「可笑しな話だよね…仕事の時は、それが便利だと感じてたのに。私情になると、余計なものだと嫌悪する。…我儘だなぁ」


 自嘲にも似た浅い笑み。
 蛍とも、柚霧とも見て取れて、どちらでもない。
 杏寿郎の知らない顔だった。


「我儘で、面倒臭い。だからいつもそういう時は、柚霧の顔をするの。そしたら、ほら。いつまでも引き摺って周りに迷惑をかけたり、こんなよくわからない感情を、顔を、誰にも見せなくて済むし」


 面倒臭い。
 その言葉には聞き覚えがあった。





『願うのに、否定する。そんなどっちつかずの自分が、心底面倒』





 初めて蛍を抱いた夜。
 こんなことで躓く自分が面倒だと、己を卑下していた。

 あの時は、面倒なものかと優しく否定した。
 例え蛍がそうであっても、自分は違うと。

 蛍に自虐意識があるとは思えない。
 「鬼だから」と口にすることはあっても、人間性を常日頃誰かと比べるような性格ではなかったはずだ。
 羨んだり敬うことはあっても「それに比べて自分は」なんて自虐を吐いたりはしなかった。

 それは肌を重ねた時にだけ見せる、吐息一つで消えるような儚い弱音。

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