第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「俺には、見せてくれ」
「……」
望みながら、強要はしない。
優しさの残る杏寿郎の声に、耳を傾けていた蛍が何か言いたげに口を開く。
しかしそれは言葉とならず、再び口を閉じた。
戸惑いが隠せない表情で、視線がさ迷う。
俯きそうになる顔を止めて、迷うように再び口を開いた。
「え、と……あの…」
辿々しい声は、まるで幼子のようだ。
「…いいんだ。無理に言葉にしなくても」
「……教えてって、」
「その表情を教えてくれただろう」
肩を掴む手が緩む。
そっと手の甲で頬を撫でれば、ぴくりと僅かな反応が返ってくる。
いじらしい仕草で、頬擦りしてくるのが蛍の甘え方だ。
しかし影を落とす今の蛍の顔は、強張るようにしてこちらを伺っている。
「その表情を俺が知っていれば、それでいい」
向けられる愛に、慣れていないような反応。
それが愛おしいと思えた。
答えにならなくとも、今の蛍に寄り添っていたい。
「…私、どんなかお、してる…?」
「ん?」
「変なかお、してるでしょ…」
「そうだな。初めて見る顔だ」
「…私も、初めてだから」
ぽつり、ぽつりと投げかけてくる。
拙さの残る蛍の言葉を受け止める。
「今ここにある気持ちが、よくわからないの。…此処で杏寿郎に伝えた想いは、全部本音だよ。傷付く杏寿郎を見たくなかったことも…"そういうこと"に、慣れてるってことも」
「…よくわからないなら、無理に伝えなくても」
「ううん」
強張る口元を、きゅっと噛み締めて。
僅かに頸を横に振る。
「無理は、してない。私も、私の感情を知りたい、だけ」
取り繕いのない裸の本音が欲しいと望んだ。杏寿郎のその想いは、よくわかる。
わかるからこそ。
ここであやふやにしてはいけない気がした。
手を伸ばせばすぐ触れられる距離に、互いの心がある。
だからこそ。手探りにでも、見つけ出したいと思った。