• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓



「私の体は、跡を残せないから…痛みがあれば、記憶に残せる」


 杏寿郎から貰えるものならば、痛みも甘美なものへと変わるのだ。


「だから、その、」


 項に触れた手で頸を押さえながら、言い淀む。
 迷うように視線を揺らして、蛍は俯いた。


「また、付けてくれると…嬉しい、かな」


 どこに何を、という問いは愚問だった。
 恥ずかしげに告げる蛍に、無意識に杏寿郎の喉が嚥下する。
 痛めつけたい訳ではないのに、本能が向くように何かがこみ上げた。

 再生の能力を持ちながら、痛いことは嫌いだとよく蛍は口にしていた。
 だからこそ自分だけに許されているその行為に、胸が熱くならない訳がない。


「…あまり俺を甘やかしてくれるな。変な癖(へき)が付きそうだ」

「変?」

「優しく愛していたいのに、君の全てを支配したくなる。その目線の先も、零れる声も、誰にも届かない所に閉じ込めて、俺しかわからなくなるくらいに抱き潰したくなる」


 頸に触れる手を辿るように。腕から手首へと掌を這わせ、柔く頬を包む。
 恭しいその仕草とは裏腹に、剥き出す程の欲を見せる杏寿郎に、蛍の頬がじんわりと染まった。


「細胞一つまで、蛍の全てに己を刻み付けたくなるんだ」

「……別に、悪いことじゃないよ」


 顔を傾けて、杏寿郎の大きな掌に頬摺りする蛍の視線が、そろりと上がる。


「私も、杏寿郎のものにしてもらいたい。他の何も見えなくなるくらい夢中にさせて欲しいって、思ってる、よ」


 数多の抱かれてきた男のことなど思い出す隙もない程に、愛と欲に溺れさせて欲しい。
 尽きない欲は自分にもあるのだと告げる蛍に、項に添えていた杏寿郎の手がくしゃりと髪を巻き込み握った。

/ 3625ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp