第7章 柱《参》✔
この土地へ来てから"鬼"という括りでしか見てこられなかった。
杏寿郎や蜜璃は蛍自身に目を向けてくれたが、それでもそれは"鬼としての蛍"という存在だ。
(私は…人間のように、見えてるの?)
しかし後藤は自分達に似ていると言った。
先入観のない目で見る彼には、等しい存在として映っていたのだ。
蛍の事情を知らないのだから当然だろう。
それでも近しいと告げられたその言葉は、蛍には衝撃だった。
まじまじと後藤を見てしまう程には。
「気に触ったなら謝るよ」
「っ」
「そうか?」
ふるふると頸を横に振る蛍に、後藤の表情にも柔らかさが戻る。
「そういや名乗ってなかったな。オレは後藤という者だ。恋柱様の関係者なら鬼殺隊のことは知ってるだろ? その隠で事後処理部隊に属してる」
「(事後処理…大変そうな仕事だ。お疲れ様です)ふく」
「ほたる、ちゃん? だっけか。アンタなんて呼び方もアレだし、いいか?」
「ふ、」
「成程。蛍ちゃんな」
蜜璃に貰った黒板セットは持ち合わせていない。
後藤の掌に自分の名をなぞる蛍に、ふんふんと後藤も頷く。
その光景を微笑ましいものを見るかのように、蜜璃はほっこりと頬を緩めた。
(この人、今までで一番話し易い人だなぁ…柱じゃないからかな?)
近しいと言うだけあるのかもしれない後藤との距離感は、蛍には苦のないものだった。
柱は良くも悪くも一人一人、独特の存在感を持っている。
後藤にはそれがない。
隠をしている身として当然のことかもしれないが、前田や菊池ともどうにも違う。
「関係性はよくわからんが、まぁお疲れ。柱相手に疲れたらオレ達が使ってる隊舎にでも寄るといいさ」
「(あ、凄くありがたい後藤さん)ふんふふ」
やはり一般的な感覚は合っているのだろう。
寄りには行けないが、行けるならば彼らの隊舎に避難したい。
そんな意味も込めて深々と頭を下げる蛍に、目を向ける者が義勇や蜜璃の他にもう一人。
「後藤め…蛍ちゃんとお近付きになってその肌を拝もうって魂胆か…忌々しい」
「な訳ないでしょゲスメガネ」
前田まさおである。