第7章 柱《参》✔
「いやぁ、おはぎなんて久々に食った。美味かったわ。ご馳走さん」
「ふく」
「…なぁアンタ、柱じゃないんだろ?」
「?」
部屋の隅にちょこんと座っていた蛍の隣に、腰を下ろす隠が一人。
飾らず話し掛けてきたのは、最初から最後までブレのない後藤という男だった。
こくんと頷く蛍に、ほっとしたように肩を下げてくる。
「やっぱりな。柱独特の空気感持ってねぇし」
「…?」
「あるんだよ。恋柱様はあんまりないから楽だけど、特にあの水柱様とか」
「……」
「だろ」
頷いてはいないが、蛍の表情で言いたいことは伝わったらしい。
柱と言うよりも義勇自体がそういう空気を持っている気もするが、わかると蛍は改めて頷き返した。
「だから、その…あの人に、なんかされたり…してねぇよな?」
「…??」
「いや…アンタは前田みたいな性格じゃなさそうだし。その口枷、まさかあの人に強制されたりしてねぇよなって、思って」
気遣ってはいるのだろうか、曖昧な言い方でも心配そうに掛けられた言葉に、蛍は驚いた。
後藤の予想は半ば当たっている。
この口枷を最初に渡してきたのは杏寿郎だが、それを提案したのは義勇だった。
「さっきから何かある度にあの人の目がアンタに向いてたからな。他人に無関心な水さんにしちゃ、珍しいと思って」
(この人、相手のことよく見てるんだなぁ…)
こそこそと声を抑えて告げてくる後藤を、今一度まじまじと見返す。
義勇とてジロジロとあからさまに蛍を監視している訳ではない。
それでも普段の義勇の態度を心得ており、尚且つその異変に気付くとは、彼と親しくないのならばその観察眼が長けている証拠だ。
「…ふんふ」
しかし義勇が監視役として付いているのは、蛍にとっては利点もある。
ゆっくりと頸を横に振ると、礼と称して頭を下げた。
「そうか…アンタはどちらかと言えばオレ達に近い感じがしてな。ついお節介を焼いた」
「?」
「言い方は悪いかもしんねぇが、一般的というか。身形は独特だが、近寄り難い空気がないというか」
ぽりぽりと眉の下を指先で掻きながら呟く後藤に、蛍の目が釘付けになる。